■創傷治癒の為のHyperberic Oxygen Therapy (HBOT/高圧酸素療法) #102

① HBOTの効能
② HBOTの創傷治療に関する文献
③ HBOTはとにかく高額
④ 保険の適用に関して

HBOT(日本語では高圧酸素療法)は、高濃度の酸素を血中に増加させて、抹消の血管まで酸素を送り込む治療法で、ダイバーの人の減圧症 (decompression sickness)の治療に効果的なものとされていますが、創傷の治療に対してはどうでしょうか。理論的には、創傷の治療にも効果的となりますが、同時に副作用のリストも長いです。

HBOTの効能

HBOTの効能には下記のような点が挙げられます。

  • 創傷部位の細胞に酸素を供給できる
  • 血管を収縮して浮腫を軽減する
  • 細胞内のメタボリズムを向上させる
  • 成長因子 (growth factor)の増加
  • 新しい血管の生成・形成 (angiogenesis)
  • コラーゲンの増加
  • 白血球の活動を活発化

等々… まだまだあります。

ちなみに、足とか膝下部分に、局所的に乗せて酸素を送るデバイス的な商品がありますが、あれはHBOTとは呼びません。酸素の送り方や濃度が違うので、チャンバーに入っての治療と同じ効果は得られません。

HBOTの創傷治療に関する文献

でも、これらの治療の効果を具体的に文献にするとしたら、このHBOTは一体どうやってリサーチするのでしょう。

創傷の状態は、各患者さんによって違って、治癒に影響する身体の状態や生活環境など、Variableが多すぎて、どうやってcohort化(条件が同じ人達をグループ化する感じ)するんでしょうか。

HBOTを加えた治療と、加えなかった治療を、同じ人で比較することは不可能なので、違う人で同じような創傷状態の人を探して… となると、とても難しい…。

Cochraneのシステマティックレビューというものがありまして、付加的な治療としてのHBOTについてレビューされています。これによると、例えば、壊死性筋膜炎 (Necrotizing Fasciitis) に対して、HBOTの治療が効果的だというちゃんとした文献は今のところ無い、みたいな書かれ方がされています。NFの治療のメインは手術と抗生物質で、HBOTを真っ先に考える医師はいませんが、それにしてもHBOT&NF関連の文献は足りませんよ、ということです。

もし興味のある方は、リンク(←下記と同じサイトです)を下記に載せてありますので、ご覧になってみて下さい。

Reference

Levett, D. Z., Bennett, M. H., Millar, I. Adjunctive hyperbaric oxygen for necrotizing fasciitis. Cochrane Database of Systematic Reviews 2015, Issue 1. Art. No.: CD007937. DOI: 10.1002/14651858.CD007937.pub2. Retrieved from: https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD007937.pub2/full?highlightAbstract=withdrawn

保健の適用範囲もちゃんと決まっていて、足の裏に一番できやすい糖尿病性の潰瘍などは、段階がかなり進んでグレード3くらいでようやく保険の適用レベルです。グレード3と言ったら、膿瘍や骨髄炎が疑われる段階です。

HBOTはとにかく高額

HBOTは保険が効く場合があります。が、前述のとおり、保険の適用範囲は決まっていて、保険によっては外来の治療では認められない(入院患者のみ)とか、保険の適用はあっても全額じゃない、とかあります。

入院患者のみ、という場合は、医師が患者を入院させる、というケースもありますが、その場合は、Med-Surgとかにはならないので、必然的に、Sub-Acuteとかリハビリが院内にある施設に入院することになり、そちらの入院代がとても高いです。

その上に、HBOTとなると、保険の適用範囲を確認しないことには、金銭的なストレスが溜まります。

HBOTは、一回だけ、ということではなくて、12回くらい続きであって、一回が$1500くらいしたりしますので、保険の適用が例えば50%とかいう場合、一回の治療で$750の自己負担です。これを12回となると… 計算するととんでもない金額です。

グレード3の糖尿病性潰瘍の場合は、私なら、金額的にもNPWTを取りますかね!というか、NPWTは必須でしょうか。状態にもよります。

医師にHBOTのリファレンスを貰った場合は、リファレンス=保険効きますよ、ということではないので、保険の適用範囲を考えて、自分の創傷の治り具合を考えて、創傷ケアの看護師とかと相談して(医師は保険のカバー率や、そこまでの交通の便がどうの、等については関知しません)ご自身で決められたら良いかと思います。リファレンスは強制じゃないです。

アメリカでは、プライベートの健康保険に対して、政府系のMedicare & Medicaid の健康保険があります。特に低所得者の患者さんや、高齢者の患者さんは、そちらの保険が多いのですが、こちらのリンクでは、大体どのくらいの確率で、HBOTの治療が承認されているのか、大体の感じを見ることができます。もし興味のある方は見てみて下さい。在宅のNPWTが事前に承認が必要なように(保険の承認用の書類をKCI社経由で事前に提出します)、HBOTも事前にお伺いを立てるようです。

感じとしては、お伺いを立てた際、ほぼ半数が却下、という感じです。

ということは、承認されると、NPWT同様、治療の全行程(12回なら12回、とか)が保険でカバーされるということかな、と思います。Medicaidの場合、これまでの感じでは、NPWTは一旦承認されたら100%カバーです。

上記リンクは、CMS.govのサイトからのリンクです。(ページ下の方の「ダウンロード」の部分から)

Reference

The Centers for Medicare & Medicaid Services (CMS). (2018). Medicare prior authorization of non-emergent hyperbaric oxygen (HBO) therapy: model status update. Retrieved from: https://www.cms.gov/Research-Statistics-Data-and-Systems/Monitoring-Programs/Medicare-FFS-Compliance-Programs/Prior-Authorization-Initiatives/Downloads/HBOPriorAuth_StatusUpdate_10262018.pdf