■毛巣洞(パイロナイダルシスト)とNPWT(陰圧閉鎖療法)#5

毛巣洞(Pilonidal Cyst)の患者さん。外来。12歳女児

Wound Case Nurseになって一番多い子供のWoundが、これです。英語で、Pilonidal Cyst(パイロナイダル・シスト)と言います。

毛巣洞とは、お尻の割れ目の辺りの毛が、皮膚の下で塊となって巣のようになり、そこが化膿してしまう状態です。その部分以外は、患者さんはほぼ全員が中高生なので至って元気なのですが、処置が遅かったり、処置を誤ると全身に菌が回り、敗血症(sepsis)になってしまう場合もあります。実際、この12歳の患者さんは、前回の処置が悪く、敗血症で入院してきました。聞くと、これが3回目とのこと。びっくりしました。

大概の場合(ほぼ全員)手術で取り除くことになりますが、手術は通常は入院を必要とせず、外来で出来ます。タイミングがいい場合及び状態によっては、子供が学校を休みやすいように、子供の夏休みや冬休みに合わせる場合もあります。大抵の子は、2週間くらい学校をお休みにして、学校から宿題や課題を貰ってきて、家で家庭学習をするようです。

手術後の創傷のケアは、家族がしたり、訪問看護師がしたりします。手術後のケアは、医師にもよりますが、一番確実に、感染を起こさずに治癒できのは、やはりNegative Pressure Wound Therapyです。陰圧でドレナージを吸い取るため、感染率がほぼ0%。パイロナイダル・シストの手術後、NPWTを使用して感染になった患者さんを見たことがありません。これは、週に三回、訪問看護師がドレッシング材の交換をするため、家族の手間がかかりません。稀にNWPTのトラブルシューティングが必要となる時がありますが、親のほとんどは、最初に適切な指導をしてあげると、ちゃんとドレッシング材の補強をしたりが可能です。

医師によっては、NPWTの煩雑さやトラブルを嫌がり、昔ながらの「wet-to-dry」で行こうとする方もいますが、看護師がきちっとやれば、NPWTのトラブルはほぼ皆無です。お尻の近くなので、リーク(漏れ)を心配するようですが、足先に比べたら、全くマシです。全然大丈夫。

昔ながらの「wet-to-dry」を、私は「saline-moist ガーゼ・パッキング」と呼びます(厳密には、wetじゃないし)。生食で湿らせたガーゼをパッキングして、一日1~2回交換します。傷の場所がお尻の上部、腰の下の部分なので、これは親、又は家族の仕事になります。というより、家族以外できません。1日に2回来てくれる訪問看護の会社は無いからです。

私は個人的には、こちらのガーゼパッキングの方がよっぽど面倒なんじゃないかと思うのですが、遊び盛りの中高生が2週間も3週間も器具をぶら下げてると、皆んな、どの子も、いい加減嫌になってくるようです。シャワーの前に、ドレッシング材を全部外してシャワーしちゃってもいいからね、と言うと、喜んで全部とっぱらって、その時の全部外した感覚が軽くて気持ち良くて、一日も早く(お母さんに面倒をかけても)ガーゼパッキングになりたい!みたいになります。

傷口の状態が「もうここまで来れば大丈夫」となったら、病院の診察日の前に、患者さんの選択の自由について言及してあげます。NWPTを続けるか、ガーゼパッキングで行くかは、患者さんの意思も医師に伝えていいんだよ、と言います。医師が「いや、まだダメでしょう」と言う場合はしょうがありませんが、ほとんどの場合、3週間経った後くらいには、医師も「じゃあ、もういいよ、でも、ガーゼはちゃんと一日2回替えてね」と言ってくれます。

パイロナイダル・シストにかかるのは、ほぼ全員と言っていいくらい、ヒスパニック系の十代の子供達です。男子より女子が多く、ほぼ全員、ムチッとした感じの体系です。白人もいるでしょうが、私個人的には、見たことがないです。

今日の患者さんは、医師がNPWTを拒否したため、ガーゼパッキングの運びとなりました。ガーゼパッキングだと、いつかは傷がふさがる日が必ずやってきますが、その後、また繰り返すケースが過去にあったのでこの患者さんには特にもう繰り返してもらいたくないなあ、という気持ちでした。

とにかく傷口内に毛が無いことを確かめることがとても重要です。毛があると、それが傷口の中に埋まり、後でまたトラブルのもとになるからです。結局、この患者さんは、来週も学校を休むことになり、その後すぐに冬休み、合計4週間も学校に行けない感じになってしまいました。