創傷がある患者さんが退院する際、その創傷のケアを毎日する必要がある場合には、退院が悩ましいものになります。
退院が近づくにつれて、患者さんは、退院後の創傷ケアは一体どうなってしまうのか、とても心配になります。特に、家族が同居していない方、年配の方で、目、耳、足腰が不自由な方は、表情に笑いがなくなるくらい不安な顔になります。
退院後のケアについては、Case manager (いわゆるケアマネですね)や、social worker、担当の看護師、医師などが一緒に動いて準備します。
今週は、創傷ケアが必要な患者さんが続々退院する週になったので、ちょっと書いてみたいと思います。
① 創傷の患者さんの退院で一番多い創傷ケア
② 誰がケアを担当できるか
③ お金の事。支払い系の事。
創傷の患者さんの退院で一番多い創傷ケア
創傷の患者さんの退院で一番多い創傷ケアは、毎日のwet-to-dry的なガーゼのドレッシング交換です。「wet-to-dry」なんて時代遅れな、とお思いかもしれませんが、実際にはそれが一番効果を発揮する感じです。
ドレッシング交換の頻度が少なければ、その分、ケアが楽なんじゃないか、と、3日くらいは持つドレッシング材を使用したことも、これは結果的には却って駄目でした。
① まず、家では多くの人が毎日シャワーをするので、ドレッシング材は結局濡れて交換しないといけない結果になる。
② 「少なくとも3日位は持つよ」と聞いたのに、患者さんはシャワー後に、「うーん、ドレッシングがちょっと濡れてそうだけど、このままでもいいのかな」と、とにかく判断に迷う。
③ 多くの創傷は、ドレッシング材を外してシャワーしてもらったほうが治りがいい。
④ ドレナージがドレッシング材の中に溜まっている可能性が高く、時には創傷が悪化しているケースがある。でも、患者さんは判断に迷ってそのままになることもある。
⑤ ドレッシングの扱いを説明していても、やっぱり迷い、電話で問い合わせてくる(電話をかけてこないで、と言っているわけでは無くて、「ああ、やっぱり混乱させてしまったな~」という気持ち)。
⑥ 「wet-to-dry」は、多くの人にとにかくわかりやすいので、迷いが無い。
多くのドレッシング市場の販売戦争で頻繁に言われる「wet-to-dryはもう古い」という文言には、あまり惑わされないほうがいいかなと思います。実際にそれが不向きな場合もあるし、総合的に判断して、それが最適な場合もあります。
創傷の患者さんが入院した場合、退院時に家で家族の方があまりストレスを感じずにケアできるくらいの状態まで持っていくことが私的なゴールです。
誰がケアを担当できるか
誰がwound care をしてくれるの?というのは切実な問題です。
特に、創傷の場所が背中とか体の裏側だったり、足の先で手がとどかなかったり(身体も曲がらない)、目が見えなかったり、理解度が無かったり(記憶も含め)、いろいろな理由で患者さんがご自分で出来ない場合、家族がいたら家族で良いのですが、家族が全く居ない方、いても同居していない方、など状況は様々で、皆さん、退院時にはそれなりに「う~ん」となります。
① 家族。やっぱり家族がやってくれたら一番安心できます。
どんな小さな創傷でも、毎日のケア(時には一日二回)は、家族にとって、とても負担です。ケアが必要なくらいの創傷は、2,3日で治るものではないので、毎日毎日となると、患者さんもお世話をしてくれる家族に遠慮するようになって、思ったことも口に出せないような雰囲気になったりします。
というわけで、ケアそのものが、出来るだけ家族の負担にならないように、ポイントだけ押さえて出来るだけシンプルに、説明もシンプルに、と思います。
② 訪問看護師。
以前も書きましたが、創傷ケアのために毎日訪問してくれる訪問看護のエージェンシーはありません。状況的に、毎日、というのがあったとしても、最初の週だけ、とか、そして後は、3日、2日、1日(週に)と減らして行く感じです。そもそも訪問看護のエージェンシーは、患者さんに、ケアギバー(ケアしてくれる家族や友人)がいない場合は、受け入れさえしてくれません。
ケアしてくれる家族がいたら、退院前にケアの練習をしてもらっているのが望ましいですが、そうでない場合は、訪問看護師が練習を一緒にしてくれます。その状況によっては(あまりにもまだ自信が持てない、とか、創傷のケアが複雑、とか)、訪問看護師が2日間連続で来てくれたりしますが、やはりその後は、自分で頑張ってみて、みたいな感じになります。
訪問看護師が入ることの利点は、①サプライを補充してくれる、②創傷ケア以外の看護的な質問も聞いてもらえる、③見守っていてもらえる、そしてなんと言っても、④創傷の状態を判断してもらえる、ことなどです。
訪問看護師さんを入れる場合、主治医が、退院前に訪問看護のオーダーを出します。訪問看護のエージェント(事務所)は、PCP(主治医)からのオーダー(実際は「Referral」です)があると、事前に書類審査をして(保険とか)、受け入れるとなったら、退院後に患者さん宅を訪れて、「Admission」をします。
病院にいるスタッフは、家の状態がどうなっているのか、家で患者さんがどんな風にしているのか、とか、所詮、得た情報での推測くらいしか出来ませんので、訪問看護師さんが実際に退院後のチェックをして下さると、とても心強いです。
③ Wound Care Clinic でフォローアップしてもらう。
クリニックの訪問は、最初は週1回、そして、段々、2週間に1回、3週間に1回という感じで、回復に向かっていきます。
クリニックにわざわざ来るのは面倒なことでもありますが、訪問看護師さんのアセスメントが甘い場合もあるし、時々医師(大体は外科医)にチェックしてもらうのは有益です。
また、鎮痛剤の質問や、創傷の治療に関する質問などに答えてもらったり、各種届出(職場などに)書類にサインしてもらったりもできるます。
クリニックに週一回、訪問看護が週一回、そして、家族や親戚の人にその他の日を担当してもらう、とか、いろいろ工夫が必要です。
お金の事。支払い系の事。
創傷ケアは、長期戦であることが多く、その分お金もかかります。訪問看護師さんにサプライを持って来て貰えている人は、それでも良いのですが、各自で自腹でお店で買わなければいけない患者さんも多いです。
創傷ケアはお金がかかるのです。
まず、① 創傷ケア用品
近所のドラッグストアで買っていたら間に合いません。お店に置いてある創傷ケア商品は、短期用で、そこで買っていたら散財します。様々な創傷ケア商品は、アマゾン(Amazon.com)で購入するのが一番安いです。
Wet-to-dry用のガーゼは、必ず、「woven」と書いた物を買いましょう。「non-woven」ではなくて。
② クリニックでのアポイントメント
これはご自分の持っている保険会社に聞くしかないです。大概は保険が効きます。
③ 訪問看護費用
これも結構厳しくて、この患者さんのこの状態に、本当に訪問看護が必要なのか、と問われます。訪問看護は、一回の訪問が$250くらいはする筈で、これを何度も、となると、やはり状態などの細かいチェックが入ります。
政府系の保険は、基本的に、患者さんが「home bound」であることが条件となります。home bound とは、病気のために、仕事にも学校にも行けないようは状態です。フォローアップアポイントメントで、クリニック等を訪れるのはこの限りではなく、それは大丈夫です。
患者さんの中には、「自腹でお金を払うから来てほしい」と言う人がいますが、そういう状態なかなか実現しません。
その場合はどうするかと言うと、ちょっと訓練して、「自立」を促す、という感じです。何度かやると、患者さんも慣れてきて、自分でも出来そうな気持になってきます。
④ フィジカルセラピー
これも必要とみなされたら保険が効く場合が多いです。保険会社に問い合わせます。肩や足などの創傷の場合、保険が効かない場合でも、一回は受けてみるといいかな、と思います。その一回だけでも、注意点とかをいろいろ教わると、自分で実践していけるので、有益だと思います。また、その一回のセラピー時にセラピストが「この患者さんはセラピストが必要」と判断した場合は、別にオーダーが出される場合もあります。フィジカルセラピーは、いろいろな意味で有益です。
⑤ マッサージセラピー
創傷治癒が目的のマッサージと言っても、保険は効かないと認識しています。個人的には、創傷があったら、マッサージはちょっと躊躇してしまいます。褥瘡など、マッサージが逆効果な場合もあるので、マッサージよりも、体を動かす方が有益です。
⑥ Durable Medical Equipment (車椅子、ウォーカー、杖、等)
主治医にオーダーを書いてもらうと保険が効く場合が多いです。必要ならば自腹でも必要なわけですし、まずは主治医にオーダーを書いてもらいましょう。
その処方箋の紙を持って、それらの取り扱いがあるお店を訪れます。各町(市など)に2,3軒くらいお店がある筈ですので、調べてみて下さい。
糖尿病の方の足の裏の創傷などは、圧力がかからないようにするためのブーツが必要ですので、それなんかも、まずは主治医にオーダーを出してもらいます。
これらは全て、退院前に揃っていることが望ましいです。(処方箋じゃなくて、物が)
⑦ 病院の支払い
病院から来た請求が、高額で払いきれない場合は、すぐに病院のファイナンスの部門に相談に行きましょう。分割にしてもらうとか、いろいろ相談にのってくれます。ネゴシエイトできる可能性もある、と、時々耳にしますが、どうなんでしょう。個人的にはネゴシエイトした経験はありませんが、駄目元でしてもいいかもしれませんよね…。
退院の前は、もう何でもかんでも質問しまくりましょう。
あれはどうなるの?これは?これが困った、これが必要、とか、もう何でもじゃんじゃん言って下さい。
退院しちゃったらもう、全て後の祭りですので、気付いたことは全て。
うるさい患者と思われたら嫌だ…とか、思う必要は全くありません。
貴方の100倍うるさい患者さんは他にも大勢いますから、ご遠慮無用です。
100回くらい言ってますが、病院は、サービス業です。患者さん(クライアント)の満足度が低ければ、病院の評価も下がります。
というわけですので、決してうるさい患者さんとは思われませんので、安心して質問しまくって下さい。