創傷箇所にインシュリン注射?!

■「false belief」思い込み・誤った信念

■創傷箇所にインシュリン注射の効果

■参考文献

「false belief」思い込み・間違った信念

一般的に、物事を「知らない」場合は、単に「知る」と良いわけで、それは特に問題ではないのですが、物事を違った風に「信じている」場合はちょっと厄介です。

糖尿性潰瘍がある患者さんは、必然的に糖尿を患っているわけですが、糖尿がある患者さんの創傷が必ずしも糖尿性潰瘍とは限りません。

高齢の、割と頭がしっかりされている患者さんが、創傷の治療のためにクリニックを訪れました。

糖尿やら高血圧やらいろいろ疾患がある方なので、普段はPCP(主治医)の先生に全般を診てもらっていて、たまたま創傷もあったので、それも一緒に診てもらっていたようなのですが、創傷箇所が悪化していくので、先日呼ばれました。

部屋に入る前に、PCPの女医さんに「ちょっとちょっと」と呼ばれました。

女医さん曰く、「この患者さん、糖尿病のためのインシュリン注射をwoundに打ってる、って言うのよ。もうびっくり。本当に困る。しょうがないから錠剤に替えようとしたら怒るのよ」と言うことでした。

患者さんの創傷は、足に出来る典型的な糖尿性の潰瘍とはちょっと異なりますが、診断が既に糖尿性潰瘍となっているので、患者さんには毎回そのように耳に入るわけで、そういうわけで、患者さんは「糖尿の創傷なんだから、インスリン(インスリン=糖尿が治る薬と信じている)を打てばいいだろう」と信じています。

ERで以前一度診た時も「ドレッシングとか要らないから、治る注射を打ってくれ」を繰り返していて、ERのドクターを困らせていた意味がそこで初めてわかりました。

ちなみに、糖尿の薬でメトフォーミン (metformin) という錠剤の薬があるのですが、この患者さんは、それを家の観葉植物の鉢の中に入れたらそこから虫が発生した、と言って、「こんな虫が発生する薬は飲めない」と言って、拒否しているとかで、PCPの女医さんが、溜息をついていました。

クリニックでは、ドレッシングを当てて、「このままドレッシング取らないでね。というわけで、残念ながら注射は打てませんよ。ドレッシングの上から刺したら針が曲がるよ。」と言ったら、「オッケー。打たないよ。」と言って帰って行かれました。

「でも、実際、創傷にインシュリン打ったら、それってどうなの?」

と思いませんか?

■創傷箇所にインシュリン注射の効果

事実、創傷箇所にインシュリンを投与してみたリサーチは存在して、結果は、「効果有り」です。

皮膚組織の中の血管中に、糖の取り込みがインシュリンによって促進されて、文献内の写真等でわかるように、明らかに、新たな血管が形成されています(アンジオジェネシス)。

しかしながら、このリサーチ内の患者さんは、必ずしも糖尿病があるわけではなく、インシュリンは、創傷の箇所の為だけに使用されているものなので、本人の糖尿病疾患に必要なインシュリンを場所を変えてこちら(創傷箇所)に、というわけではありません。

そして、上記の患者さんは、糖尿病がしっかりあるので、やっぱり、内科用のインシュリンをテキトーに創傷箇所に打ったりされても困るわけです。

■参考文献

Zhang, Z., & Lv, L. (2016). Effect of local insulin injection on wound vascularization in patients with diabetic foot ulcer. Experimental and therapeutic medicine, 11(2), 397–402. doi:10.3892/etm.2015.2917. Retrieved from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4734220/

Yu, T., Gao, M., Yang, P., Pei, Q., Liu, D., Wang, D., … Liu, Y. (2017). Topical insulin accelerates cutaneous wound healing in insulin-resistant diabetic rats. American journal of translational research, 9(10), 4682–4693. Retrieved from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5666074/

Martinez-Jimenez et al. (2018). Effects of Local Use of Insulin on Wound Healing in Non-diabetic. Plastic Surgery. 2018 May; 26(2): 75–79. doi: 10.1177/2292550317740688. Retrieved from: https://europepmc.org/articles/pmc5967165