アキレス腱の露出(exposed Achilles tendon)

アキレス腱が露出していると、それはまさに「死守」の状態で、外科医に送るべき状況です。

経緯

77歳の手強い患者さんがいます。両足のアキレス腱の部分にかなり前からの創傷があります。本人曰くは、片方は一年半以上、もう片方は半年以上あって、その半年以上の方(右側)が痛い、とのこと。

何が手強いかというと、自分の気に入らない事があると、勝手に行動しちゃう、という、いわゆる「non-compliant」な患者さんです。私は、その半分は、医療施設側の問題だと思っていて、何か月か前にMed-Surgに入院していた時も、そのnon-compliance的な行動について聞いたら「夜の看護師がスペイン語がわからなくて、何も説明してくれなかったから何もわからなくて不安だった」と言っていましたし、過去二回のLong-Term CareでのAMA(自分で勝手に退院してきちゃうことです)も、おおよそ、そのような類なんだろうと思います。あってはいけないのですが、現実には、難しい(医療施設側にとって)患者さんに対しては、「non-compliant」と称して、AMAしてくれるとホッとしてたりもします。

この患者さんが先日ERに来ていて、呼ばれて行ってみたらその患者さんで、「あれ?何でここに?」という感じでした。AMAだったなんて…。両足のアキレス腱の部分にあった創傷は、2か月前にMed-Surgにいた時よりも悪化していて、どちらも100%に近いくらい厚いSloughで覆われていて、サイズも大きくなっていました (7cmx7cmくらい)。Med-Surgでは、2,3日の間にも良くなる兆しを見せていたのですが、受け入れてくれるというLong-Term Care が見つかったと言う事で、さっさとそちらに移されてしまったのです。結果AMAでしたが…。

というわけで、ERの後のフォローアップケアが必要で、でもERがある病院(うちの病院)までは来れないと言い張って(その日は来てましたけどね)、自宅がある近所のうちの系列クリニックなら来れるとのこと。

じゃあ、そこでもいいからそこへ来て、と、足は両足、ドレッシングで覆って、KerlixとCobanで数日間大丈夫なようにぐるぐる巻きにして、帰ってもらいました。

シャワーとかしちゃったらどうするの?取れちゃうんじゃない?とかいう疑問は、この際、二の次で…。

系列のクリニックには私は基本的に行かないのですが、この患者さんのためだけに行くことにしました。(事後報告で…)

5日後、そちらの(隣の市)クリニックに行きました。患者さんがちゃんと来てくれてホッとしました。

ぐるぐる巻きのKerlixとCoban(ドレッシングをキープしててくれた!)を外したら、創傷を100%に近いくらい覆っていたSloughは、100%消えてとても綺麗な赤いwound bedが出ました。

が、しかし、同時に、右の足のアキレス腱が2㎝露出している~

クリニックで聞いたら、その創傷は、患者さんの言う通り、一年半くらいかそれ以上前からあって時々クリニックを訪れていたとのことでした。そして、この患者さんにはとても苦労しているという説明を延々と受けました。

アキレス腱のケア

アキレス腱に限らず、腱が出ていたら、乾いてしまわないように、ハイドロジェル等で覆って保湿状態を保つことが必須です。

乾いてしまったらもう使用不可になってしまって、アキレス腱だったら、歩行に支障がでてしまいます。高齢の患者さんの歩行に、一旦支障が出たら、その後、簡単に寝たきりになってしまったりします。高齢の患者さんが一旦歩けなくなる、ってことはもうそれは大変なことなのです。乾いてしまったら、年齢、腱の場所に関わらず、もう手術しないといけません。

気持ち的には、NPWTで覆うのが一番安全なのでそうしたいのですが、この患者さんにNPWTを使用できるのかどうか(過去の行動からして)わかりません。

入院していただいてNPWTか、その部分に、皮膚の移植(豚の皮膚等)をすると早く治りますが、それでも何週間も長くかかります。それも外科医と相談です。患者さんご自身の皮膚の移植となると、その創傷以外の創傷も出来るので(ドナー側)、それまたこの患者さんにはどうかと…。この患者さんにとって、ネックなのは、何週間もの間、ちゃんとケアを受けていてくれない、ということです。逆に言うと、何週間もの間、この患者さんが望むケアをしてあげられるLong-Term Careの医療施設がない、ということです。残念ながら。

その他の選択は、コラーゲンのドレッシング等。これは数日置いておくタイプです。

いずれにせよ、アキレス腱の露出は、外科医の先生の判断を仰ぎたいところです。

そのクリニックにはハイドロジェルを持参していなかったのと、又、wound bedの赤い部分が、両足共に多少hypergranulation気味だったことから、持っていたBacitracin とMepilex のドレッシングで覆い、患者さんを説得して、それをまたKerlix とCoban で巻きました。

患者さんは、Mepilexだけにして欲しい、と言うのですが、この状態では、いくらMepilex の付きが良くてもSkin Barrier を塗ったとしても、絶対に取れて来ちゃいます。

外科医の先生

2日後(本当はすぐ翌日電話したのですが「アキレス腱?明日クリニックに行くからその時に」とのことで…)。

今週の外科医の先生は、たま~にいらっしゃる外科部長的なお方。隣の病院でも外科部長的なポジションにいます。これはいいタイミングと思って、早速相談に行きました所、「これはね~、手術が一番いいでしょう~」と仰います。

「うちで?他(隣の大きなトラウマ病院)で?」の質問には「う~ん」と、答えない…

そして「あ、ちょっと行かなきゃ」と、他の患者さんの部屋へ…

私も他の部屋に行って、出てきたら、ドクターは手術があるからと帰っちゃったよ、とのこと。

ああ、そんな~…

患者さん、Foot Doctorのアポがあった

さて、どうしましょうか、今頃、ドレッシングは外れて、腱が出ちゃってるんじゃないかな、と思いながら、最近うちの病院に導入された新しいコンピュータシステムで患者さんのチャートを見たら、今日、そちらのクリニックで予約が入っていることがわかりました。30分後にフット・ドクターと。

フット・ドクターは、Podiatristと言って、足の爪の状態をケアしたり(巻き爪とか)、足が原因の歩行状態をチェックしたり、何しろくるぶしから下をケアしてくれるドクターです。くるぶし以上の場所(アキレス腱も)は彼のケア範囲外です。

しかし、そんなことは構っていられないので、速攻で、FAXを送って、「お願いだから、アキレス腱が出てたらドレッシングで覆って下さい。お願いします!」の旨…。アシスタントに電話をしてFAXを受け取ってもらって…。

(4日前、クリニックで、患者さんがぐるぐる巻きが嫌だと言って、じゃあ、ちょっとだけにするから、じゃないと取れちゃうから、と言って、妥協案でちょっとだけのぐるぐる巻きにしたのです。)

夕方、そちらのクリニックの先生から留守電があって、「明日、例の患者さん、来ないって言ってるの。本当に困った人だよね。とりあえずお知らせしておきます」とのことでした。(明日アポ入ってたのか、という感じでしたが)

ああ、そうかあ、じゃあ、それはきっと、フット・ドクターがドレッシングを補強してくれたからかな!と勝手にホッとして…

今後

今日、コラーゲンドレッシングを注文しました。

Medline社の「Puracol Plus」。比較的安価なやつです。じゃないと、簡単に買ってもらえないのです。

後日に続きます。