入院患者さんからの質問:
「(患部に)枕カバーは使用していい?」
「看護師がタオル当ててたけどそれはいいの?」
「家に帰ったらベビーパウダー使っていい?」
「Gold Bondはいい?」
「コーンスターチはいい?」
内科的な理由で転倒した患者さんが入院して来られましたが、同時にモイスチャーによる皮膚ダメージ(Moisture Associated Skin Damage (MASD) が酷かったようで、呼ばれました。呼ばれて行った時点で、既に医師がanti-fungalのクリームとパウダーを処方していましたので、私の仕事は主に、退院後の患者さんの生活についてお話する、という点にありました。
患者さんが、上記のような質問を矢継ぎ早にしてこられたので、お答えしました。
その前にまず…
Moisture Associated Skin Damage (MASD) とは
「Moisture Associated Skin Damage」というのは、汗や尿などからの湿気によって皮膚がダメージを受ける状態です。肥満の患者さんに多く、身体の部位としては、胸の下、お腹周り、腿の付け根、腿などに多く見られます。
症状としては、赤味 (redness)、皮膚の損傷 (denuded skinなど)、痒み (itchiness)、皮膚真菌感染症状 (fungal skin infection)などがあります。
赤味だけで真菌感染症とさっさと診断されてしまう場合も多いのですが、痒みやsatellite lesion が見られない場合は、薬品が入っていないシンプルなスキンパウダー(stoma用のパウダー等)を一回使用するだけで改善する場合も多いです。
患者さんからの質問
というわけで、前述のとおり、患者さんが質問してきたのでお答えしましたので、シェアしたいと思います。
枕カバーは、NOです。
綿やポリエステル素材の一般的な枕カバーは、水分をあまり吸いません。でも、問題は、吸う吸わないではなく、吸った水分が肌に直接当たったままの状態になって、肌にダメージを与えてしまいます。
実際は、病室でも時々見かけます。
この場合のタオルというのは、アメリカで俗に「washcloth」と呼ばれる正方形の身体を洗うタオルです。ホテルに泊まると、バスルームに大きなバスタオルと、中くらいの顔を拭いたりするタオルと、小さい正方形の身体を洗うと思われるタオルがおいてありますよね?その小さいタオルです。
タオルは生地が荒くて、肌に優しくないので使用しません。湿気を吸う吸わないに関しても、上の枕カバー同様、肌の湿潤環境に変わりがないのであまり意味がありません。
患者さんが「でも、シャワーの後、看護師がタオルを当てがっていたけど?」と言ってきました。シャワーの後、身体全体を乾かす意味もあってタオルを当てがったのだと思うので、家でも、そのままずっと当てておかないで下さいね、と説明しました。
赤ちゃんのお尻に「ベビーパウダーは使用しない」という認識は、若い世代だけでなくても随分定着していると思います。赤ちゃんのおむつかぶれにも、高齢者のおむつかぶれにも、もうベビーパウダーは使用しません。
が、高齢者世代にはまだベビーパウダーを支持している人がいます。最近入院された他の70代の男性患者さんも、荷物にベビーパウダーが入っていました。
ベイビーパウダー使用するしないは、看護師の資格試験(NCREX)にも出るポイントです。質問文には「ベビーパウダー」とは書かれていないので、「?」となる人もいないとも限りません。「Talc」とか「Talcum」という風に書かれます。
資格試験でのポイントは、対象は赤ちゃんで、使用しない理由は「粉を吸い込んでしまった場合、肺にダメージを与える危険性がある」というものです。
吸い込んでしまう危険性に加え、使用したら逆に皮膚の炎症が認められた、という研究結果も報告されています。(参照文献は下です)
発がん性物質云々についてはここでは触れませんが、興味がある方は調べてみて下さい。
MASDの視点から見た場合、必要なのは肌を湿気から保護するバリアです。ベビーパウダーは、肌の保護するバリア的には弱くて、すぐに湿気に負けてしまう。必要なのはちゃんと覆っていてくれるペースト状のものです。そしてそれ以上に必要なのが、もっと頻繁におむつを替えたり湿気をそこに存在させないことです。
黄色い入れ物に入った(他の色もあるけど)、Gold Bondという商品があります。割と有名です。ベビーパウダー同様、Gold Bondも医療施設内ではあまり使用されませんが、問題の無い肌に予防的に使用する分には、それほど問題はありません。
実際、ドラッグストアもGold Bondシリーズは割と人気があります。
Gold Bondは商品は様々売られていて、商品によっては「Talcum Powder」が入ってると言われているので、患者さんには「使っていいです」と医療従事者側が積極的にお勧めすることはできません。
アメリカには片栗粉(ポテトスターチ)というのはあまり売られていませんが(日本食屋さんには売られています)、コーンスターチは普通に売られています。
9/19/2022:最近入院された患者さんがコーンスターチを愛用しているとのことでした。肌がジュクジュクしている状態ではなくて、予防用として使っているそうです。患者さん曰く「さらっとして、とてもいい」とのことでした。調べてみたいのですが、ベビーパウダーのようなネガティブ情報が見つからなかったので、患者さんが良いならいいのか、と思いました。強いて言えば、粉を吸い込まないように気を付けてくださいね、ということぐらいでしょうか。
参考文献(References) / 参考ウェブサイト
Coloplast. InterDry Case Studies. https://www.coloplast.us/Global/US/Skin%20Care/Interdry/HealthTrust-TryInterDry/SC-M5096N-InterDryCaseStudies.pdf
Sukhneewat, C., Chaiyarit, J., & Techasatian, L. (2019). Diaper dermatitis: a survey of risk factors in Thai children aged under 24 months. BMC dermatology, 19(1), 7. https://doi.org/10.1186/s12895-019-0089-1