■壊死性筋膜炎(Necrotizing fasciitis)の術後 #80

ウェブサイト(英語の)では、”flesh(肉)-eating disease”とか”flesh-eating bacteria”が原因とかいう説明がありますが、実際の医療現場で、そういう言い方をしているのは聞いたことがありません。患者さんにそのような説明をしているのも聞いたことがありません。

看護師やスタッフは、ちょっと長いけど、「ネクロタイジング・ファシアイティス」と言いますが、医師は通常「ネクロファス」と短く言います。ちょっとカッコいい感じで…。

ウェブサイトで調べると、「rare(稀)な病気」と書かれていますが、稀の定義にもよりますが、現実的には、割と時々ある感じです。

最初、患者さんがERに来ると(ER的な症状なのでクリニックには来ない)、大体Cellulitis(蜂巣織炎)かな、と思うのですが、症状がもうちょっと深刻とわかると、バタバタし出します。刻一刻を争う病気で、特に、もっと大きな病院へ搬送が必要な場合は、更にバタバタします。

私の持つ壊死性筋膜炎(NF)のイメージは、創傷がある場合は、そこから灰色っぽい、濃い(色じゃなく)ドレナージが止まることなく出てくる、という感じです。

直系1cmくらいの穴(創傷)から、まるで下水のように膿が出ていた患者さんの時は、CNAに手でその部分を塞いでてもらって、瞬間的にドレッシング材で覆って、速攻でERに送りました。

この患者さんは、腰の部分(腰の部分の肉付きは良かった)に直系1cmの穴(創傷)が10cmくらい離れて2個あって、そこの両方から止めどなく膿が出て来ていたのですが、2,3日後に、手術を終えてニコニコして帰って来たのはいいけど、見たら、術後の創床サイズは紙のサイズでA4くらいの巨大なものでした(身体のサイズもそれなりに大きい方)。

このように、壊死性筋膜炎(NF)は、通常、その箇所をかなり上回る面積で皮下組織を切り取ることになります。そして、ほぼ必ず、術後の創傷ケアはNPWTをアプライすることになります。

処置が遅れると、手足の場合は切断も余技なくされるような深刻な病気ですが、個人的にはですが、今までNFによる手足の切断はまだ見たことはありません。場所は、手や足、肩、腰、お尻など様々です。

前置きが長くなりました。

昨日入院して来られた70歳の患者さん、女性。糖尿病があって、体重は202 lb.。92kgくらいですね。意識もしっかり、動きも普通で、ベッドでも自分で左右に動けます。

壊死性筋膜炎(NF)で、遠方(車で3時間以上)の病院に搬送されていて、ようやく当病院へ戻って来たという感じでした。戻って来た、というのは、当病院で2度に渡る手術をしたのですが、症状的に、更なる手術が必要となって、その日たった一人しかいなかった外科医が応援要請をしたのです。

当病院よりも何倍も大きな病院に搬送された後、何と、その後3週間の入院で、そこで4回もOR行きになり、最後は、もう、ここから先はもうそっちで面倒を見てくれ的に、転院させられて来たのでした。

何がそんなに何回にも渡るOR行きになったのかと言うと、別の箇所にもNFが見つかったことと、その2回の手術に加え、ベッドサイドでのNPWTのドレッシングのアプライが不可能でORで2回ドレッシング材を替える結果となったようです。

遠方の病院からの搬送は軽く2時間以上。2時間というのは、陰圧を止めた状態からインフェクション発生までのギリギリの時間。なので、2時間以上システムを止める場合は、ドレッシング材は逆に創傷を悪化させる原因となるので、それを丸ごと外さないといけません。

NPWTのシステムは、前も述べたように、施設から出さないことが鉄則です。しかし、患者には継続的なNPWTが必要で、搬送中の車内(救急じゃない救急車で来ます)でもNPWTのシステムが稼働してないといけません。

というわけで、この患者さんは、KCI社の新しい商品、V.A.C. VIAと言う、使い捨てのシステムで登場しました。これは、電源コードも勿体ないくらい立派なキャニスターもマシンもカバーも、ひっかける紐にいたるまで、全て使い捨てで7日間使用可能なシステムです。捨てる時、これ本当に捨てていいの?と心配になり、KCIのうちの担当レプに電話して確認したくらいです。

新しい商品なので、担当者も最初は「電源は搬送元に返して。そう、その、来た病院に」と言ってましたが、その後電話が来て「いいんだって。全部捨てちゃっても。僕もわからなかった。ごめんね。」みたいに言われたので、KCI内でもまだ情報的に新しいようです。

ちなみに、KCIのNational Call Center (大代表)の電話に出た人は、「ちょっとその商品はうちでは取り扱いがない…」などと言っていましたが、「目の前にもしコンピュータがあるなら入れてみて」とスペルを言ったら「あ、ほんとだ、ある」みたいな反応でした。

この患者さんは、2個のNPWTのシステムで戻って来られたのですが、そのうちの一つは、ずーっとエアリーク(空気漏れ)の音が鳴って、アラームランプもついてて、見たら、ドレッシング材を覆うフィルムはもう半分くらいすっかり剥がれていたのでした。2時間ルールとか…これじゃ何の意味も無いなあ、という感じで。このVAC VIAは高価なのです。システム1つで、日本円にして十万円近くします。勿体無かったです。

とうとう本題に入れぬまま長くなったので、続きにします。(続き