露出した腱(Exposed Tendon)

■ 動いている腱がgranulation tissueでカバーされることは極めて困難

■ 腱がgranulation tissueでカバーされるプロセス

■ HYAFF & eHAM

動いている腱がgranulation tissueでカバーされることは極めて困難

下半身不随の方のふくらはぎ部分の潰瘍が悪化し、デブリーメント手術(I&D) の結果、腱が露出する潰瘍となりました。腱は筋肉につながっていますが、そのつながった部分から数cmまるまる露出しています。下半身不随で足が動かなくても、腱の上下運動は正常にされています。この上下運動のことをグライディング(gliding)と言います。足を動かすことはできないので、この動きは本人の意思ではありません。

逆に言うと、通常のwound careの範囲で、granulation tissueが腱をカバーするのを期待する場合、この腱の動きを止める必要があります。「tendon immobilizer」的なもので固定する必要があるのですが、その後の腱の動きに支障が出るといけないので、これはPT/physical therapistの介入が絶対必要になります。

腱がgranulation tissueでカバーされるプロセス

腱がgranulation tissueでカバーされるプロセスは、まず、fibroblast cellがcollagenの生産を促しECM (Extra Cellular Matrix) を形成します。そこへ、granulation tissueが徐々に乗ってきて、その上にkeratinocytesがmigrateしてくる、という形です。

グライディングしているTendonの場合、granulation tissueがカバーすることは極めて難しく、起こらない場合も多いので、そのままの状態で自然完治まで、というケースは私は見たことがありません。「rolling stones don’t gather no moss」みたいなイメージですね。何らかの術的な助けが無いと、限りなく長い時間がかかるか、または、そのまま完治まで至らないで悪化するリスクが高いと思います。露出部分が小さい場合は、この限りではありませんが、上記のように、露出部分が数cmにもなる場合は難しいです。

多くは(多分全ケース)、デブリーメントした後に、バイオロジック・ドレッシングか同等のskin substituteがグラフトされます。その後、土台が出来上がったら、その時点で、スキングラフトになるケースが多いようです。Exposed tendonの場合は、スキングラフト前にこの土台作り作業が入ります。

ほとんどの場合(多分全ケース)、このようなグラフトはNPWTを使用することになります。VACドレッシングの下には、マトリックスを保護するために、くっつかない(non adherent) コンタクトレイヤードレッシングを必ず使用します。

ここでは、デブリーメント (I&D) 後にグラフトされるskin substituteは、以前の投稿にも挙げたような「Biologic dressing」も含まれます。

過去投稿:Placenta Biologic Dressing プラセンタ由来のバイオロジックドレッシングをグラフト

HYAFF & eHAM

「HYAFF」は、ヒアルロン酸のマトリックスで、ヒアルロン酸特有の短いhalf-life(24時間未満)がコントロールされています。軟骨(cartilage)や、その他組織の修復に使用されます。

そして「eHAM」は、このHYAFFが層の一部として組み込まれたマトリックスです。深い火傷や頭皮の修復、露出した骨や腱の修復に使用されます (Simman & Hermans, 2018)。(参考文献には画像も掲載されているので、興味のある方は是非ご覧ください。下にリンクを載せてあります。)

露出が小さい場合は、Polymemドレッシングなども使われるようです。個人的には、Polymemドレッシングは他の潰瘍に使用したことはありますが、露出した腱に使用した経験がないので、参考文献(記事)だけ挙げてみます。こちらです。その記事にも、露出した腱は何かしらのBiologic dressingで覆うように、と書かれています。

「Polymem」は、non-adherentドレッシングなので、wound bedにくっつかないフォームドレッシングです。他のフォームドレッシングとの違いは、ドレイネイジを吸収すると同時にwound bedのデブリーメントも行われるという優れものです。ボーダー付きのものを使用すると、固定するための更なるドレッシング、いわゆるseconary dressingが不要です。

参考文献(Reference)

Simman, R., & Hermans, M. H. E. (2018). Managing wounds with exposed bone and tendon with an esterified Hyaluronic Acid Matrix (eHAM): A Literature Review and Personal Experience. J Am Coll Clin Wound Spec. 2018 May 7;9(1-3):1-9. doi: 10.1016/j.jccw.2018.04.002. PMID: 30591894; PMCID: PMC6304287. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6304287/