■壊死性筋膜炎(Necrotizing fasciitis)の術後(続) #81

#80から続きます。

ディスポーザブル(使い捨て)の新型NPWT、V.A.C. VIAのシステムで当病院に戻って来た患者さんは、7時に到着して、その後NOC(夜勤)のナースを悩ませることになります。

朝、出勤して、朝一でこの患者さんを訪れると、NOCのナースが一晩中苦戦したのが一目瞭然でした。昨日、半分剥がれていたフィルムドレッシングを張り替えて、補強してなんとか陰圧状態が続くようにして帰宅したのですが、夜中にまた剥がれたようでした。

通常NPWTのドレッシングは、3日4日くらいなら剥がれることもないのですが、この患者さんの場合、wound の場所がお尻で、限りなくお尻の穴に近い場所。2㎝くらいしか離れていない感じです。そして更に、創傷もフラップ付きでギザギザの形で25㎝くらいの長さ。25㎝x9㎝x深さ4.5㎝です。

創傷箇所イメージ

患者さんの写真は無理なのでイメージ画です。

体形にも凹凸が大きくあり、ベッドで動く頻度が多く、ベッド脇に置かれた簡易トイレに夜間も何度も行かれます。Lasixという、尿が多く出る薬を処方されているらしく(通常は夜間にトイレに行かなくていいように、朝にあげる)、一日に何度もトイレに立ちます。

私が部屋を訪れた時、丁度、トイレを使いたい、と言って立ったので、その時見たら、もう、NPWT用のフォームドレッシングが剥がれてぶら下がってる状態。更に恐ろしいことに、トイレ後に拭いたワイプまでが創床に触ってるし、そのぶら下がってるフォームドレッシングにだって、尿とか付いちゃってる可能性大の感じでした。

もう、これはNPWTは無理だと思いました。

でも、手術をした大きな病院から来たオーダーは、「NPWTを続行して週に3回ドレッシング交換、NPWTが無い場合は壁のサクションを使用のこと」でした。(壁のサクションを使うのは、よっぽどの緊急)それに従うしかないよね…的な雰囲気です。

でも、この状態でNPWTをするには、Foley(フォーリー/尿管カテーテル)に加え、rectal tube(便用カテーテル)か、又はコロストミーを付けるくらいじゃないと(テンポラリーの人口肛門)、インフェクションのリスクが高すぎるし、看護師も大変だし、退院の余地も無い感じです。病院内のリハビリ病棟では、この患者さん+NPWTでは、受け入れはしてもらえないのはほぼ確実です。

それを担当の医師に伝えると、Foley+rectal tubeってのはちょっと… 又はコロストミーって… クレージーすぎるじゃないか…」と困り果てた顔をしていました。そして「2時に外科医が来るから、外科医の意見を待とうよ」ということになりました。

そこで登場したのが、術後は常に昔ながらの「wet-do-dry」を使用することで有名な外科医。ハイエナジーで「コニチワー!」とやってきました。

見た途端、「いいじゃないか~、wound bedも綺麗。え?NPWT? 何言ってんの?無理でしょ、これ。wet-to-dryで行けよ。」と即答。

傷床は4.5㎝だけど、一か所8.5㎝の深さの場所があって、packingした方がいいと思いますか?と聞くと「いいんだよ、そんなの。気にするな。表面だけでいいから。」との答え。

そして反対側にある小さくてエアリークの無いNPWTのドレッシングを剥がし始めて「2時に来いって言ったの、そっちだよ。どうして剥がしてないの?」と私に。

「それは、問題なくNPWT続けられる箇所だから問題ないです。そのままでいいです。」と言うと、「来たからには創傷全部見るよ。当然でしょ」(確かに。それはその通りでした。反省。)と剥がして、「おお、これもいいじゃな~い。これもwet-to-dryね。」とおっしゃる。

「いや、これは、NPWT大丈夫だから、オーダー通りにいけます。」とちょっと反論すると、「youはね、wound しか見てないね。この患者を見てないね。この患者の退院後を考えてないね。wet-to-dry以外無いだろう。もっと全体的なケアをしないと。」と諭されました。

「じゃ、せめてDakin’sのオーダーでお願いします」と言うと「おお、それはノープロブレムよ、オッケーよ」と書いてくれました。

ドレッシング材固定イメージ

テープを張ったり剥がしたりで肌を痛めないよう、ネットの下着で固定します。上の創傷部分は同じネットの下着を股部分を切って使用しています。

今日ほど、この外科医のwet-to-dry信仰を有難く思った日はありませんでした。

そして、今週の担当外科医がこの先生で良かった…と心から思いました。他の先生だったら「でもオーダーがNPWTなんでしょ?じゃあ、それでいいんじゃない?Good Luck」って感じだったと思います。

壊死性筋膜炎(Necrotizing fasciitis)の術後にガーゼパッキング…って初めてですが、やっぱりその患者さんに合ったケアを優先させていなかった自分を反省しました。

そしてこの外科医は、患者さんに「自分で自分のケアをする練習もしないと。「後ろが見えない」じゃなくて、「後ろの傷の様子に意識を向ける」練習をしないとね」と言ってくれました。

それまでずーと「家ではケアが出来ないから家には帰れない。私の今の状態は24時間ケアが必要」と言い続けていたのです。この外科医とは初対面で、そんなことはその場で一言も言ってないのに、なんだかちゃんと見抜いてた感じで、この外科医を見直しました。

と共に、そのように持っていけなかった自分がまだまだ本当に未熟だと思いました。

ちなみに後日…

上記のネットなんかじゃ、ドレッシングは持たなくて、結局、テープで固定となりました。#2の創傷は、ガーゼパッキングをして、上からメピレックスのドレッシングで覆いました。