■ エスカー(eschar) と かさぶた (scab) の違い
■ エスカーが剥がれた後の潰瘍のケア
高齢者の患者さんに時々見られる創傷に、かかと部分のエスカーがあります。
家族の方が慌てて「足を切断しないといけないですか?!」と外来に連れて来られます。
エスカー(eschar) と かさぶた (scab) の違い
エスカーと言うのは、黒くて硬くて、見た目が、かさぶたと呼ぶには厚すぎる…という感じの肌組織の壊死の状態です。
エスカーとかさぶた(scab)との相違点は、エスカーが、その下の肌が深い層の部分から壊死しているのに比べ、かさぶたは、肌はそのままで、肌の上に血液の塊が乗っている状態です。
エスカーは下、かさぶたは上、です。
エスカーは、一般的には、乾いてて硬くて固定されている場合は、そのままにしておくのが一番安全です。時々、エスカーの周りが赤くなり始めている時もあるので、感染を防ぐ目的で、iodine solution(ヨード液)をコーティングするのが良いです。ドレッシング材で覆う必要はなく、空気にさらして乾いたままにしておきます。
入院患者さんや施設入居者さんの場合、スタッフが時々、良かれと思ってだと思うのですが、ドレッシング材で覆っていたりする時もあります。保護されてる意味では良いですが、それで例えばシャワーとかされて、そのままになっていて、湿ったドレッシング材が患部にモイスチャーを与えてしまうこともあるので注意が必要です。最近のシリコンドレッシング材は、材質がいいので、シャワーしてもシャワー後も見た目がちゃんとしているかのようになっているので、特にシャワー後などは要チェックです。
よく観察していなければいけないのは、エスカー部分がグラグラし出した時です。ブヨブヨ、というのかな、中にドレイネイジがあるのか触ってわかったり、ドレイネイジが実際に出てきたりする時です。
エスカー部分、特に周囲が湿ってきて、剥がれて来る時は、ドレイネイジが出るので、ケアの内容を変更します。エスカーが剥がれた場合、その下からジュクジュクした潰瘍が出てくることも多いからです。多くの場合、かかとのエスカーは、数㎝の幅があるので、中の潰瘍のサイズもそれなりに大きくて、深さもあります。
エスカーが剥がれた後の潰瘍のケア
エスカーが剥がれ始めると、そこはバクテリアの入り口、port of entryとなって、骨髄炎(osteomyelitis)のリスクが高くなります。一旦骨髄炎になってしまうと治りが遅いばかりか、高齢者に長い間抗生物質の治療を強いることになってしまいます。そういう意味でも、毎日しっかり治療していかないといけません。長期にわたる時もありますし、高齢者の方の家庭でこれをするのはかなり難しいと思います。が、不可能ではありません。できます。
エスカーが剥がれた後の潰瘍のケアは、iodine solutionからiodine gel (paste)に変更になります。iodine gelでのケアは、基本的に毎日、それが無理なら一日おきくらです。ドレイネイジが多い場合は、毎日です。
毎日交換することに加え、スラフ部分(壊死した組織部分)を少しづつ除去してあげると回復が早いのですが、外来の場合、そんなに頻繁に来てもらうこともできないのが、大変な部分です。
入院患者さんや、施設に入っている患者さんだと、毎日行って、少しづつ除去していくことで良くなります。これをご家族の方にやってもらうのは結構大変だと思いますが、前述のとおり、決して不可能ではありません。また、訪問看護師さんに来てもらえるのなら、是非利用されたら良いと思います。
看護師さんの教育も必要です。
看護師さん達は、皆さん大体この茶色のペーストの扱いに苦労します。名前はGELですが、実際はペースト状です。翌日になると、茶色のペーストは白く変色するのですが、この白く変色したペーストをスラフと思い、スラフが増えてる、と記録したり、このIodosorb の独特な臭いを、創傷の悪臭として記録されたりすることもあります。直接、このケアは一体何なのか、と苦情を言ってきたりされた時もありました。
ちなみに、臭いが強くなってきたら、Dakin’s solutionの使用も効果的です。
糖尿病の患者さんが毎日足をチェックしなければいけないように、高齢者の方の足、特にかかとの肌のチェックは毎日行う必要があります。靴が原因のことが多いので、靴は大きすぎず、小さすぎず、です。
足は一旦創傷が出来ると、とても治りにくいので、毎日チェックがキーポイントです!♡