創傷ケアは、湿潤環境を保つことが基本となっているので、ドライなら水分を、ウェットならドライにする、となります。乾いたエスカー(eschar)などはこの限りではありません。
よって、理屈からすると、ハイドロジェルは乾いた状態に使用されることになります。ハイドロ (hydro-) は、水分という意味。
ハイドロジェルの成分は、約90%が水で、残りの約10%は水をジェル状に保つためのゼラチンやグリセリン、PVA等です。配合は各社商品によって微妙に違います。コラーゲンを配合した商品もあります。
以上の成分から、医薬品の類ではなく、FDAが絡むこともありません。そのため、ハイドルジェルに関するリサーチ数も少ないと言われています。
医薬品じゃないので、医師の処方箋が不要、とはなっていますが、外来では治療内容全てが医師のオーダーの元で行われるので、そういう意味では医師のオーダーは必須です。
ハイドルジェルをウェットな潰瘍に:最近あったケース
この1,2週の間に、ハイドロジェルをウェットな状態の潰瘍治療に使用するケースが2件ありました。
2つのケースには次のような共通点がありました。
共通点:
慢性的な創傷:一旦治っても繰り返す
静脈性潰瘍:どちらも肌の変色有り
潰瘍サイズ:どちらも2.5cm x 1.5cm。深さが0.3cm程度。
潰瘍の場所:どちらも足首~くるぶし
ドレナージ量: Moderate
体型:肥満で歩けない、上半身に対して下肢が細い
血糖値がコントロールされていない(1人は透析中)
自身でのドレッシング交換が出来ない
コンプレッションがないと悪化する
等です。
最後の「家でのドレッシング交換が望めない」場合、訪問看護師を派遣するオプションも通常ならありますが、諸事情からそれは叶いませんでした。(一旦派遣はされましたが、諸問題が浮上したようです)
かと言って、毎日外来に訪れるのは、現実的ではありません。
というわけで、治療は、足全体を考えるとUnna-bootになるのですが、それだけでは潰瘍部分がなかなか回復に向かいません。
潰瘍部分は、wound bedも綺麗な赤でinfecionになっている様子もないので、ドレイネイジのためのフォームドレッシングでいきたいところですが、両者とも肌に弾力性が全くないので、フォームドレッシングを使用すると、punch out woundのようになり、epithielializationが遅くなりそうな気配です。
そこで、ハイドロジェル。
「ハイドロジェルは基本ドライな状態に」という観念があったのですが、ハイドロジェルの他の使用目的として「隙間を埋める」というのもあります。それにより使用するに至りました。
潰瘍周りをプレップしたら、ハイドロジェルを創床にアプライして、その上からUnna bootを巻きます。潰瘍周りのプレップには、Cavilon skin barrier を使用しています。更に、Unna bootが乾いた際のフリクションを防ぐため、当たる部分をすべてスキンリペアクリームやペトロレアルジェルで保護します。これをしないと、高い確率で、更なるスキンのブレークダウンになってしまいます。
両者とも、punch-outな感じが消えて、潰瘍の深さが浅くなりつつあります。浅くなるというより、平均的になってきているという意味です。潰瘍の面積が広がったとしても浅くなると、治療オプションが増えます。
今、ハイドロジェルを使用して治療中ですが、今いる医師が次の医師にスケジュールで交代したら「何でハイドロジェル⁈」と言われる可能性もなきにしもあらず…。