■意外だけど割とある褥瘡箇所
■睾丸にドレッシング材は難しい。では何を。
■この類の座クッションはダメ
褥瘡 (pressure ulcers/pressure injuries)が出来やすい身体の部位と言えば、尾てい骨部分だったり、踵だったり、骨が出っ張ってる部分(bony prominences)は大体リスクが高いです。
褥瘡 (PU/PI) は、体や物からの圧力だけでなく、それに更に、こすれたり (friction)、常時濡れていたりすると、ますます出来やすくなります。
■意外だけど割とある褥瘡箇所
意外かと思われるかもしれませんが、褥瘡は睾丸にもできます。
私の勤務する医療施設のセンサス(census/患者さんの数)自体が少ないので、多い少ないを言うのは難しいですが、何人もいます。
その患者さん達に共通するのは大体、下半身が不自由で車椅子の生活をされている方、電動車椅子の方、下半身が不自由な関係で尿意や便意のコントロールが難しい方 (incontinence) です。頭はしっかりしている方もいれば、認知症の方もいます。
電動の車椅子は電動の揺れがあります。電動車椅子に乗ることが許可されている方は、頭がしっかりしていることが条件ですので、そのような方たちは、外出も多くて、一回のお出かけ時間も長めです。
電動の振動と、電動車椅子のちょっと固めの座席シートの組み合わせが、睾丸の皮膚にダメージを与えてしまったりします。
外出は、頻繁でもよいですが、一回の外出時間を短くするとベターです。
出来始めは、大体、線みたいに切れてる感じになることが多いです。なので、誰も褥瘡とは思わないと思います。また、傷も一個ではなく、2個とか出来る場合もあります。
■睾丸にドレッシング材は難しい。では何を。
ドレッシング材をincontinentの方の睾丸に貼るのは、現実的ではありません。一日に何度も取り替えないとダメみたいになります。それに、肌自体が肌というより「ひだ」なので、くっつきにくいし、無理に近いです。
では何を。今まで一番効果的だったのは、Calazime pasteという、文字通りペースト状の軟膏を厚くぬります。厚く塗る事で、創傷が便によるダメージを受けるのを防げます。
Calazime paste は、zinc oxide がメイン材料のペーストです。材料が他にも何種類か入ってます。水分から創傷箇所を守ってくれます。
ベタベタしてこんなのつけるの?と思われるかもしれませんが、そう感じる方は、そもそも睾丸に褥瘡できていません。
つける頻度は、便 (bowel movement) があったら、その都度ワイプで拭いた後につけます。ワイプで拭くときは、完全に拭き取る作業をすると更にダメ―ジを与えてしまう可能性もあるので、便がついてしまった分だけ拭き取って、その上にまたペーストを重ねます。
■この類の座クッションはダメ
患者さんが、普通の車椅子で、クリニックを訪れたのですが、車椅子クッションが、ドーナツ型のでした。
「お尻のトラブルにはドーナツ型のクッション」と思われる方は多いですが、ドーナツ型クッションは、褥瘡には向きません。ますます圧力を与えてしまうからです。
その患者さんは、「この道20年です」と自らおっしゃっていたチャキチャキ系のヘルパーさんと一緒にいらしたのですが、ヘルパーさんの一押しだったので、そのドーナツ型クッションを使っている、とのことでした。
「本当に言いにくいんだけど、ドーナツ型は一応ね、不向きなのです」と告げると、患者さんが「でしょう?!何か、座った感じがね、違うんじゃないかな、ってずっと思ってた。」と言いました。
ヘルパーさんが、「でも、このクッション、触った感じがそんなに硬くないし、いいでしょう?」と言ってきます。でも、もう患者さんが「いや、そういうことじゃないんだよね。座った感じが…快適じゃない」と主張して(今まで主張できなかったらしい)、別のクッションにしてくれることとなりました。
クッションの話をして、Calazime pasteを持ち帰って頂いて、一回の受診で終わりました。
他には…
他には、顔に出来たり(ベッドの手すりに顔がついたまま、朝まで一晩その体勢で寝ていたら出来ていた、とか)、ずっと寝ていた方は後頭部に出来たりします。