Woundのサイズが大きい場合は特に、デブリーメント後の回復には時間がかかります。上皮細胞が一歩ずつwoundの内側に向かって進んで行くのを待たなければいけません。年齢が若い患者さんでもそれなりに時間がかかるのに、高齢の患者さんでは、ますます時間がかかり、せっかく綺麗にデブリーメントされたのに、傷床の状態が再度悪化することもあります。
そこで、昨今頻繁に治療として行われるのが、皮膚の移植です。英語でスキングラフトといいます。
スキングラフトは、まさに医療システム側にとっても、患者さんにとってもWin-winな結果が得られる治療法です。スキングラフトはreimbersement(治療報酬）率が高く、病院にとって良い収入源となります。良いどころか、優れた収入源に成り得ます。また、患者さんにとっては、長く続くデブリーメント後の治療をスキップできるのですから、やっていただけるなら嬉しい、というところでしょう。
スキングラフトとは、患者さんの他の部位から、皮膚上層部の一部をそぎ取り、デブリーメント後の綺麗な傷床に貼る治療方法です。皮膚の層が綺麗に上下合体 (take) する確率は70-90％と高く、治療も早く終わります。
スキングラフトの利点（Pro）と欠点（Con）をまとめると次のようになります。
Pro：
治癒期間・治療期間が短くなる
長期に渡る治療による精神的な苦痛が軽減する
病院側への診療報酬代が大きい
デブリーメント後の感染率が下がる
Con：
ドナーサイトが更なる創傷箇所となる
ドナーサイトの治療が発生する
ドナーサイトが痛い・痒い
ドナーサイトの状態が悪化（コンプリケーション）する可能性もある
Wound VACを使用する可能性も高い（レシピエント・サイト）
ドナー・サイト
皮膚移植（スキングラフト）のドナー・サイトは、特別な事情が無い限り、デブリーメントされた傷床 と同じ側の腿の上部です。サイズは３ｃｍくらいの小さい物から30㎝くらいの大きいものまで様々です。
皮膚のハーベストに関してはここでは省略します。何故なら、それは器具を使用してOR（手術室）のスタッフ及び医師が行うからです。
術後のドナー・サイトのケア (Post-OP Donor Site Care)
ドナーサイトのケアの方法は、外科医のオーダーに従います。ここで説明したいのは、2種類のやり方です。
①ゼロフォームにBacitracin等の軟膏をたっぷり塗って患部に貼り付ける。これを一日１～２回（外科医の指示による）取り替える方法。
①には、残念ながら、様々な欠点があります。
(a) まず、痛い。ゼロフォームは乾くとガーゼなので、ゼロフォームにいくら軟膏を塗ってもドレッシング交換時には、傷床にくっつきます。痛みがあるということは、患者さんにドレッシング交換時、事前に鎮痛剤をあげる必要があります。鎮痛剤を服用すると、患者さんの活動量が減るし、転倒リスクも高くなります。
(b) そして、面倒。スキングラフト後は、患者さんは通常何日間か入院をします。ドレッシングの交換をするのは看護師なので、看護師がドレッシング交換に時間をとにかく取られる点は大きな欠点です。大量のサプライを持ち込み、上記の作業を毎日１～２回するのはとても時間のかかる作業です。
(c) 費用がかかり、不経済。(b) で述べた通り、鎮痛剤の服用とそれに伴うモニタリングには、看護師の時間と労力を要します。また、大量のサプライを使用することにもなり、それにかかる費用。加えて、病院での鎮痛剤の値段は高価です。
このように、①の治療法は、どの面から見ても、利点が見つかりません。
次に治療法 ② です。
② は、ゼロフォームのみを術後直ぐに患部に貼り付け、剥がれてくるまでそのまま取らない、という方法。
ドナーサイトの創床サイズに関わらず、同じように貼り付けます。ゼロフォームは乾くので、傷床にくっついて簡単には剥がれ落ちません。２，３週間でカサブタのように乾いて自然に剥がれ落ちます。その間、患部はガーゼのドライドレッシングをあてて、清潔に保つだけです。経済的でもあるし、ドレッシング交換の苦痛もありません。ゼロフォームがしっかり張り付いているので、感染症の可能性も低い。
規模の大きな病院だと、事故などで運ばれる患者さんも多く、スキングラフトの患者さんが複数入院していたりします。この状態で、外科医の治療法が①の場合、現場のナース及び、wound care nurseの時間的、また、労力的な負担は大きいです。そしてそれよりなにより、患者さんの苦痛も大きいです。スキングラフト後のドナーサイトのケアには、絶対もって②がお勧めです。