毛巣洞(pilonidal cyst)の治療:NPWTでの治療に関しての、家族への説明と家族からの質問

■陰圧閉鎖療法(NPWT) vs ガーゼパッキング

■訪問看護師 週3回 vs 外来に週3回

■NPWT止め時のタイミング

■保険カバーの関係

■家でのトラブルシューティング

■少し問題があったケース2件

この度の毛巣洞 (pilonidal cyst)患者さんは12歳女児で、今までの患者さんの中で最年少でした。でも、体型は大人と変わらないくらいなので(体重230lb)、年齢よりも身体の発達具合によるところが大きいと思われます。

■陰圧閉鎖療法(NPWT) vs ガーゼパッキング

毛巣洞 (pilonidal cyst)があって痛みやドレイネイジが伴う場合、通常は、外科的に元になる部分を取り除くことになります。入院は必要ではなく、外来で手術をして手術後1~2時間程で帰宅できます

治療は、ほとんど全てと言って良いくらい陰圧閉鎖療法(NPWT)になりますが、サイズが小さかったり、外科医がNPWTは必要無し、と判断された場合は、ガーゼパッキングによる治療になります。

NPWTでの治療は、基本的に家でのケアが不要なので、家族にとっては楽です。

治療にオプションはあるものの、これは通常は家族が選択するものではなく、外科医の判断になります。

NPWTの利点は下記のとおりです。

  • 家族がケアをする必要がない
  • 術後のバクテリア感染率が低い
  • 肉芽組織 (granulation tissue)の形成が早い

などです。

NPWTの欠点をあげるとすれば、次のような点です。

  • 器具がうっとおしい。ほとんどの患者さんは、あっという間の3週間を過ごします。
  • 器具が重く、外出が億劫になる。ほとんどの患者さん(ティーンエージャー)はすぐに慣れて、器具持参するようになります。
  • シャワーがしにくい。これはドレッシング交換のタイミングに合わせて出来るようになります。
  • 臭いが気になる。キャニスター内に臭い防止になる固体化ジェルが入っています。よっぽどドレイネイジが多くない限り、それほどの臭いはありません。

などです。

NPWTを使用せず、ガーゼパッキングでwound careをする場合の利点は、器具を使用しない手軽さ、くらいです。

逆にガーゼパッキングの欠点をあげると、次のような点です。

  • 家族が1日2回のドレッシング交換をしなければならない
  • 生食水だけを使用した場合、術後のバクテリア感染率が高くなる。
  • 肉芽組織の形成が遅い
  • 表面の皮膚組織の治癒が早く進んでしまうことがあり、内部の治癒速度が伴わない。よって再発率が高くなる。特別な場合ですが、ガーゼパッキングが上手くいかず、1年間、だらだらと閉じなかったケースがあります。
  • ドレイネイジの管理がうまくいかない時があり、不快感を伴う。
  • 臭いを伴う時がある。
  • ガーゼパッキングの場合、訪問看護師は週に一度の訪問となり、感染を見逃しがち。これは、保険でカバーされる訪問回数が週に一回しか認められないためです。

■保険カバーの関係

上記のとおり、NPWTを使用しての治療は、多くの利点があることから、健康保険でカバーされたスタンダードな治療法です。

NPWTを自宅で使用する場合、入院患者(acute care settings)と違って、使用システムやドレッシング材の購入は、予め保険会社の承諾を得ることになります。承諾が得られて初めて使用可能になるので、却って安心です。

病院内での使用と違い、事前承認を必要とする外来使用は、承認が得られるまでに2~3日かかるので、治療開始は手術日に合わせて計画的に行います。

保険会社のチェックは、昨今益々厳しくなっています。看護記録がきちんとしていなかったり、創傷箇所のサイズの記入が欠けていたりした場合、途中で保険のカバーレイジが切られることがあります。最後まで保険でカバーされるよう、必要な記録や書類はきちんと提出しなければいけません。

万が一、保険の支払いが行われず、実費で支払うとなると、1日100ドル(一万円位)以上のコストが発生します。それは大金ですので、必要書類には抜けが無いようにします。

訪問看護師によるドレッシング交換を選択した場合、週に3回の訪問が保険で認められています。これがガーゼパッキングに代わると、週に一回に変わります。

外来でのドレッシング交換を選択した場合、治療費用は訪問看護師が家に来る場合に比べ、2倍くらいに割高になりますが、保険でカバーされているので、患者さんの出費は、いずれにせよ、ありません。

■訪問看護師 週3回 vs 外来に週3回

NPWTのドレッシング材の交換は、外来で週三回行うか、訪問看護師が週三回行うか、のどちらかです。どちらのオプションがいいですか?と聞くと、ほぼ全員が「外来に来たい」と答えます。訪問看護師さんといえ、誰かを家に週三回招き入れるということは、それなりにストレスなのかもしれないと思います。また、外来に来ると、医師に診て貰える頻度が高いので、安心感があります。

執刀した外科医も、外来で出来るなら外来でやって、と言いますが、まれに、患者さんが外来に来れない場合もあるので、可能なオプションはお伝えします。

医療従事者にとっては、いつものpilonidal cystですが、患者さんと家族にとっては一生に一度(と願いたい)の経験でナーバスになっています。頻繁に医師に診て貰えたら安心です。訪問看護師さんにお願いする場合は、医師とのフォローアップは2~3週間に一度程です。またその際、外来ではNPWTのドレッシング材をあてて貰えない場合もあり、同じ日に訪問看護師さんが結局来ることになり、二度手間です。

医療施設のシステムによっては、自動的に訪問看護師のオプションになる場合もあります。隣の市の病院では、術後は100%訪問看護師にお願いするようです。それはそれで、決まった訪問看護エージェンシーも、それで慣れるので、問題はないようです。

■NPWT止め時のタイミング

患者さんからの質問で必ずあるのが、「どれくらいかかりますか?」です。この質問はNPWTの場合でも、ガーゼパッキングの場合でもあります。

NPWTは、大体3週間前後です。傷が大き目でも小さめでも3週間前後です。早いと2週間の時もありますが、急いでガーゼパッキングに変えてもあまりいいことはありません。ガーゼパッキングに変える目安は次の通りです。

1) ドレイネイジが`赤い血の色の「serosanguineous」から金色の「serous」に変わり、量も少なくなった。赤いドレイネイジのまま少量になる患者さんもいれば、金色に変わって徐々に量も少なくなる患者さんもいます。いずれにせよ、創傷箇所のサイズが小さいのにドレイネイジだけ多い、というケースはありません。

2) 創傷箇所のサイズがガーゼパッキングで管理しやすいくらいの大きさまで来た。ガーゼに変えた途端、ササっと傷口の治りが早くなることがあります。

3) 肌が著しくかぶれてきた。 どんな肌が健康な子でも、3週間くらいすると赤くかぶれたり、発疹が出てきたりします。これはNPWTを中断する理由にはなりませんが、上の2つを満たしていれば(特に2つ目)、「肌もかぶれてきてるしね」という補助的なポイントにはなります。

4) 週末前に合わせる。これはもし、お母さんが外に仕事に出ている場合などです。お母さんにとっては、初めてのwound care、それも、1日2回のミッションです。慣れて来たら、朝にチャチャっとやって、夕方~夜にチャチャっとやるで終わりますが、最初の1日2日はそうもいきません。なので、仕事を持っている場合は、出来るだけ金曜にNPWTを外して、一緒に練習して、土曜と日曜でゆっくりやってもらう、という形にします。

■家でのトラブルシューティング

家でのトラブルシューティングは、ほとんどが「エアリーク(空気漏れ)」です。確率的には、3人に1人くらい、治療中に一回あるかないか程度です。

治療を始める時、お母さん(現状は、100%やるのはお母さん)とフィルムドレッシングの扱い方をちょこっと練習します。お母さんは我が子の為なら真剣です。エアリークがある場合は、ほとんどのお母さんは自分で頑張ります。でも、それが起こらないように、私もドレッシング材は完璧に貼ります。

それ以外のトラブルシューティングは、キャニスターの詰まりや交換くらい。まれに、ドレイネイジが予想以上に多い時があり、家族が交換しないといけない時があります。それに関しては過去記事をご参照下さい。

ちょっとのことでも不安にさせたくないので、トラブルがあった時のために連絡先を渡します。特に週末は不安になることが多いので、週末でも夜中でも連絡くれていいから、と言いますが、実際はありません。でも、連絡先があると無いとでは精神的に違うだろうと思います。

今回この12歳の患者さんが電話をくれて「どうやら漏れている気がするけどわからない」ということでした。聞いたらば「スポンジは柔らかくなくて硬いまま」で、「デバイスに表示されている圧は基本いつも125mmHgだけど、今は時々100になってる」と「エアリークと表示はされてはいない」とのことでした。

その感じだと、若干の漏れはあるものの、まあなんとか大丈夫、の状態です。それを伝えて、もしエアを感じたらその部分をフィルムで補強してみて、とお願いしました。そして、もしNPWTの状態がおかしいな、と思ったら、(翌日の)午後の予約を朝に変更するから連絡頂戴、と言って、電話を切りました。

その後、テキストメッセージがあり、「(上部の)フィルムがシャワー後に剥げてきたのが原因だと思うから、そこをお母さんがフィルムで補強したら100が消えました。だから予約はそのままでいいです」ということでした。

それは、とても「Good job!!」なトラブルシューティングでした。頑張ってくれたお母さんに感謝を伝えました。正直なところ、お母さん達は、フロアで勤務している看護師よりもトラブルシューティング力が高い場合が多いのです。

この患者さんは、8㎝の深さの深めのwoundでしたが(多くの場合は4~6cm)、約3週間NPWTして、この金曜日に外しました。

患者さんには、すぐに取り出して使える0.125%のDakin’s Solutionに浸されたガーゼパッキングを容器に用意しました。これだと、容器を開けて2”x2”のガーゼを1枚取り出し交換し、その上に乾いたガーゼを当ててお終いです。ドレイネイジが通過して衣服を汚さないように、その上に当てられるnon-adherentドレッシングも持参してもらいました。

2日目の今日の時点でメッセージは無いので、問題無くやってもらえてると思います。

■少し問題があったケース2件

上記の通り、今まで何人もいた患者さんの全てはヒスパニック系のティーンエージャーで、家でのケアはほぼ100%お母さんの手にゆだねられています。完治はしたけどその過程で少し問題があったのは次の2件です。

■19歳。祖父と二人暮らし。おじいさんはwound careは全く無理。訪問看護師が週3回訪問。ドレイネイジが非常に多く、フィルムドレッシング内に漏れ出し、ドレッシング材が剥がれてしまう。担当看護師の訪問回数は決まっているため、トラブルシューティングがうまくなされない。なんとか、創傷が小さくなり、ガーゼパッキングに変わったが、毎日2回のwound careをしてくれる人がいない。それでも、その後、おじいさんがようやく重い腰をあげて頑張ってくれてました。2~3週間多めにかかりましたが、なんとか治療終了。

■18歳。学校へは行っておらず、ホームスクーリング。祖母と二人暮らし。本人がおばあさんには創傷箇所を触らせず、おばあさんによるwound careは望めない。唯一wound careをしてもらえるお姉さんは、車で30分の所に住んでおり、大学生なので、勉強とアルバイトで忙しい。時々は来れるが1日2回は到底無理。1日一回も難しい。

本人は家で長時間床に座ってゲームをするので、創傷箇所が閉じる暇がない。ガーゼパッキングによる治療なので、看護師の訪問が保険適用になるのは、週に1回のみ。wound care センターの担当看護師が、特別に最初の1~2週間だけでも毎日訪問という形で 保険適用をお願いしてみるので、毎日訪問してほしいとエージェントに依頼。毎日そこの住所まで行ける看護師がなかなかいないがそこはくりあ。しかし、最初の2週間過ぎても傷はあいたまま。NPWTは何故か施されない。この患者さんが学校に行かなくなった最大の理由は、このwoundです。体育座りも出来ないし、ドレイネイジで衣服も汚れる。臭いもあって人に嫌がられる等々。このwound が閉じるのに1年以上かかったようです。