高齢者の靴・履きものに要注意

高齢者の方が新しい創傷を抱える場合、靴が原因になるものがとても多いです。「due to (related to) poorly fitting shoe」とかいう感じです。

■サイズに関係なく起こる場合

■Poorly fitting shoes

■保険が適用されるカスタムシューズ

■結論

■サイズに関係なく起こる場合

一昨日外来を訪れた方(70代男性)も、踵の創傷の原因は、靴でした。

「poorly fitting」じゃないのですが、後ろ側の「プルタブ」という、履く際に持ち上げる部分をグイっと引っ張ったら肌がこすれて傷が出来てしまった、とのこと。

外来にはサンダルに素足で訪れました。家族としては、出来るだけ医師が診察し易いようにとの医療者側への配慮で来た、ということでした。

そんな気遣いを頂きどうもありがとう、と言ったけど、だけど、普段は、ちゃんと靴下+靴、にしてね、と説明をすると、ご理解いただけたようでした。糖尿病がある方で、糖尿病があると、本当に小さい石ころとかを踏んでも気付かなかったりします。

また、中には、感染している創傷の場合もあるので、検査するまでは、それがMRSAなのかもわからないし、出来るだけ創傷はカバーしておくことをお勧めします。依然として、傷は空気で乾燥させとけば治る、と言う人は多いです。確かに、それでもいい場合もありますが、やっぱり外来を訪れるくらいの創傷ならカバーしておいた方がいいです。

どのようにして傷が出来たかを聞いても、「多分何かを踏んでしまったのかも。よくわからない。」と答える方がとても多いです。

この男性患者さんは、なんと10㎝くらいの創傷に発展したようなのですが、家族が一日二回のケアをして、今は3㎝の大きさ。素晴らしいです。

糖尿もあるので、足の専門医に一か月に一回診てもらっています。通常は2か月後に来てね、という先生ですが、きっと、woundがあるから頻繁に診てるのだと思います。何故なのか、その足の専門医がこの段階で、wound careに回して下さったようです。でも、wound care サイドの医師も「improving しているし、状態もいいし、家族のケアもいいから、足の専門医に毎月行くのなら、それだけで十分だ。もうこちらには来なくていいよ」と言って、一回で終わりました。

想像するに…、足の専門医的には、wound care に行くのなら、podiatry側に毎月来る必要は無いよ、ということだったのだろうと思うのです。コミュニケーション不足ですね。一言言ってくれればそのように配慮したのにな、と患者さんが帰ってから思いました。ちょっと気付くのが遅かったです。申し訳ない。

どちらで診てもらっても、同じ医療施設内だから、患者さん的には同じなんだけど、なんせ、この足の専門医は、患者さん1人につき10分以下しか時間をもらえないという殺人的な忙しさなのです。だから、きっと、時間がかかるwound 患者さんは、出来ればwoundの方で見てもらいたい、ということだったと思うのです。

80代女性は、右の足の静脈性潰瘍がようやく完治に近づいていたのに、ある日、反対側に包帯を巻いていていました。本人は何も言わないし、靴下を履いてズボンを履いていたので、帰るまでわからなかったのですが、ケアが終わって、靴を履かせてあげている時に「何だか不自然な靴下の感じ」と思って見たら包帯でした。

「ええっ!新しいの?」と聞いたら「そう…」と。

「何で言わないの?」と思いますが、確認しなかった私がいけないです。

いつもクタクタのテニスシューズを履いているので、家族が誕生日に新しいテニスシューズを買ってくれたらしいです。最初は「あら~、いいじゃな~い」とか言っていたのですが、それを履こうとしたら、新しいが故にちょっと硬くて(本人曰く)、爪でひっかいてしまった、とのこと。

靴下を履いてるんだから、それってどういう状況?と思いますが、まあ、本人のレポートとして受け止めました。最初は確かに小さかったです。1cmもないくらい。でも、それでも大きくなる場合が多いです。特にexudate (滲出液) がある場合等です。

入院している患者さんなどは、その出具合を翌朝とかに確認できるのですが、外来だと、一週間に一回か、せいぜい二回くらいしか来てもらえないので、そういう変化を見るのが難しくて、一週間後に来たら、潰瘍が大きくなっている場合もあります。電話して聞いても、あまり意味がありません。サラッと「大丈夫よ~」と言われる場合がほとんどです。

というわけで、三カ月くらいかかってようやく治った右足の潰瘍でしたが、今は左足の為に通院しています。相変わらずクタクタのくつを履いています。靴のアナトミー的に言うと、「tongue」というようですが、前の引っ張る部分、紐の下敷きみたいな部分が、本体に一カ所だけ糸で縫われている状態で繋がってて、今にも取れてきそうなクタクタ加減です。でも、頑なに「新しいシューズは危険だから」と言って履きません。

「変化」とか、変化に自身をアジャストするのは、高齢者が苦手なエリアです。

■Poorly fitting shoes

靴の中で足が泳ぐ状態だと、靴が足をサポートすることが出来ず、転倒などに繋がります。また、変な所が常にこすれてたりして、ちょっとした肌の損傷から大きな創傷に発展したりします。多くの方の場合、カスタムシューズにする必要はありませんが、ちゃんと合うサイズの靴を履くのが安全です。

■保険適用のカスタムシューズ

カスタムシューズの購入が保険でカバーされる場合があります。一年に一回(1ペア)です。(各自の保険を確認してください)

でも、誰にでも出るわけではなく、基準がいくつかあります。これら(下)の全てではなく、上から二つは必須で、その他下の箇所は1つでも構いません。

★医師のオーダーがあること(これは主治医でも、足の専門医でも構いません)

★医師(これは主治医)の最新の記録にその旨が記載されていること。

★比較的最近の過去に、足に潰瘍があったか。

★現在、足に潰瘍があるかどうか。

★糖尿病やそれに伴う神経障害(neuropathy)があるか。

等です。これらの書類を提出すると、近隣の指定店が判断してくれます。これじゃ、出来ない、という場合も、どうして駄目なのか、何が足りないのか、を言ってくれて、それを補填すると、OKになる場合が多いです。

面倒くさい、と思われるかもしれませんが、患者さん側がしなければいけないのは、主治医に「懇願」するパートです。多くの医療従事者は、特に要請が無い限り、「快適なテニスシューズとかを履いてね」で終わります。

実際、快適なテニスシューズでいいんです。いいんですが、中には、足の長さが明らかに違うのに、ずっと「快適なテニスシューズでね」と言われ続けている人もいます。そのような方は、カスタムシューズだと歩行が全然変わりますので、医師にしつこく「懇願」する必要があります。そこに一歩踏み込んでくれる看護師がいたら「懇願」する必要もないのですが、自分と医師だけの場合は、やっぱり「懇願」しないとダメです。

書類が整ったら、その書類を提出して(持参か、又は、医師のオフィスからFAX送信等)予約を入れます。

指定のお店では、足の型を取ってくれます。出来上がりまで、一か月くらいかかる場合がほとんどですが、それはしょうがないですよね…。

出来上がりには、それを履いて、歩行してみて、ちゃんとOKか、その場でチェックをしてもらいます。

■結論

爪をきちんと短くしておく。

ゆっくり時間をかけて履く。

サイズが合っている靴を履く。

靴下を履く。

糖尿病がある人は、足のチェックを毎日行う。

糖尿病がある人は、サンダルじゃなく、靴を履く。

糖尿病がある人は、家の中でも素足厳禁。

糖尿病がある人は、足の指と指の間にはクリーム等を塗らない。

小さな創傷でも、あっという間に大きくなることがあります。

足の創傷は、小さくても治るのに時間がかかります。