ハイパーグラニュレーション(過剰肉芽)

(Updated記事です)

1.ハイパーグラニュレーション(過剰肉芽)とは

2.ハイパーグラニュレーションの対処オプション

カーバンクルの炎症部分を手術室で取り除いた患者さん(#154の患者さん)が、その後フォローアップのためにクリニックに来られました。

I&D (incision & debridement) の翌週にあったフォローアップでは、創床は綺麗な赤い色でした。患者さんは28歳の健康な方だったので、そのまま順調に治っていくだろうと思われました。でも、2週間後のフォローアップの日、傷はもう完治又はほぼ完治していると思ったのですが、MAの人が「傷がふさがってないらしい」と言ってきました。え…そうなんだ…と思いながらクリニックに行ってみました。2㎝未満の比較的小さなwoundなのに何故?と思いながら…。

ハイパーグラニュレーション(過剰肉芽)とは

傷がふさがっていない原因は、創床のハイパーグラニュレーションでした。

傷が治癒していく過程で、傷床にはグラニュレーション(肉芽)という組織が形成されます。しかし、時として、その形成が過剰になって、ハイパーな状態になります。ハイパーグラニュレーションは、創傷部分が炎症を起こしている症状で、出血を伴う場合もあります。

(炎症=change of condition、なので、必ず医師に診て貰う必要があります)

炎症もさておき、肉芽組織が過剰に形成されると、盛り上がってしまって、傷がふさがっていくのを邪魔してしまいます。

傷が治っていく際、通常、上皮組織が周りから伸びていって創床を覆います。が、傷床周りの皮膚組織が乾いていたら、脱水症状で組織は死んでしまって、伸びて行ける皮膚は、そのもっと遠い所の正常な組織になって、その分時間がかかります。

さらに、ハイパーグラニュレーションの肉芽が目の前にそびえ立っていたら、その山を越えていく勢いで伸びていく必要があります。でも、そんなことが起こることはまず無いので、やっぱりHP部分を治療する必要があります。

2.ハイパーグラニュレーションの対処オプション

Silver nitrateのスティック

Silver nitrateのスティックで、肉芽組織を焼いてしまう方法。長いマッチ棒みたいなスティックの先を当てて焼きます。これは、医師がやります。医師のスーパーバイズ下で看護師がすることもあります。ですが、看護師が勝手にやってしまうのは絶対にいけません。グラニュレーションの部分には神経がないのですが、場合によっては痛みを伴う可能性もあります。第一に、患者さんを不安にさせてしまうので、 その行為自体が難しいとか簡単だとかにかかわらず、私は医師にやってもらうのがいいと思っています。

組織を損傷させる行為なので、看護師がする場合は、絶対に医師の承諾、オーダー、監視下で行うようにします。また、その箇所が黒くなるので、患者さんが家で「これってどうするの?」という感じになります。「Patient Education」をきちんと行い、その旨を記録します。

Silver nitrateのスティックは、使用前に水で濡らして「activate」します。多くの医師は、特に水で濡らすことなくHP tissueにそのまま触り、大概の場合、希望通りの結果が得られますが、基本的には水でactivateです。

生食水は「NaCl」で、Silverと化学反応を起こして目的の機能を阻害するので、「activate」するのは水です。触りたくない周りの肌部分はスキンバリアリキッドで多います。スティックで肉芽組織を触ると、組織の色が灰色に変わります。少し触るだけで効果が得られるので、患者さんが痛みを我慢するという必要はあまりありませんが、小児などは痛み具合を見ながら加減して少しだけにします。通常は少し触るだけで効果があります。

今回は、外科医が「silver nitrate」を選択したので、外科医が焼きました。前任のwound care nurseは、自分でこれをさっさとやっていたようですが、前述のとおり、医師のオーダー無しに看護師がするのはNGです。Advanced practiceでない看護師の場合は特に、ハイパーグラニュレーション=炎症なので「change of condition」ということで、必ず医師に診て貰う必要があります。

Bacitracinなどの軟膏を塗る

小児などにSilver nitrateを使用したくない場合は、こちらを選択する医師も多いです。Bacitracinなどの軟膏を一回塗るだけで治まる場合も多いです。Topical antibioticsの軟膏は、BodyがPetroleum Jellyなので、何度も塗ると、その水分量のためにHP状態が悪化したりする場合もあるので注意が必要です。

ステロイド軟膏を塗る

「ステロイド軟膏を塗る」のも効果的だと個人的には思っていますが、私の職場では実際にはそんなに使用されません。Bacitracin軟膏はちょこちょこあります。やっぱり一番多いのはSilver nitrateのスティックというのが肌感覚ですが、ステロイドは、効果的で、安価で、非侵襲的(non-invasive)なオプションであるとされています (Gabros et al., 2023)。

ステロイド軟膏/クリームの種類、Class、Contraindictions、はこちらのサイトで確認できます。

こちらのArticle内では、火傷の患者さんに対して使用されたステロイド軟膏(Hydrocortisone) の効果について書かれています。ステロイド軟膏は、4日間の使用をめどにされています (Jaeger et al., 2016). ←少し古い文献ですが、良かったら見てみて下さい。

圧で押さえる

ドレッシング材などで圧力をかけて肉芽の形成を抑える。これは、実際に圧をチェックするとかが難しいので、これだけではあまり効果がないです。また、過剰肉芽の形成が炎症による場合、ドレッシング材で押さえる、だけでは問題が解決されません。逆にそれで炎症が悪化してしまう時もあります。

NPWTの陰圧を下げる

NPWTで治療していてWound bedにHPが起こったら、ドレイネイジの量にもよりますが、NPWTの圧をデフォルトの125mmHgから低い圧に下げると効果的な時もあります。またサクションの場所がwound bedの真上に来ている場合は、位置をずらすと良い時もあります。これは、私の患者さんには効果があったので、試してみてください。

ドレッシング剤で治療する

Mesalt dressingというドレッシング剤があります。Sodeum Chloride (生食水/塩水)がwound bedを洗浄するみたいなイメージです。Silver nitrateが効果が無い場合は、こまめにドレッシングを替えていきましょうか、という場合もあります。

私の働く外来では、Mesalt dressingは特別オーダーで購入しないといけません。

別の患者さんで、Silver nitrateを2回やっても効果が無かった患者さんがいました。2回やっても効果が無いのなら、それ以上してもしょうがないので、普通にnormal salineのwet-to-dryみたいな感じでガーゼ交換してもらいました。ドレイネイジ量が多かったので、1日2回は交換して下さいとお願いしたのですが、ずっと一日一回だけだったのです。本人がようやく2回の交換をしてくれてから、HPのwound bedの状態はみるみる回復していきました。

」がいいらしいのですが、やはり外来の患者さんには、経過観察をしてあげられないので慎重になります。患者さんはいちいち経過を報告してくるわけじゃないし、1~2週間経ってサプライズ、というような状態で外来に来られたりすることもあります。患者さんの環境やバックグラウンド等には当然のことながら、大きな違いがあるので、少しでも安心安全の確信が持てないケアは躊躇します。入院患者さんは、毎日のように経過をチェックできるので、その点安心です。外来の患者さんも、これからもっとtelehealthが普及したら、チェックもこまめにできるようになるのだろうか、と期待します。

参考文献(Reference)

Gabros, S., Nessel, T., A., Zito, P., M. (2023). Topical Corticosteroids. StatPearls. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK532940/

Jaeger, M., Harats, M., Kornhaber, R., Aviv, U., Zerach, A., & Haik, J. (2016). Treatment of hypergranulation tissue in burn wounds with topical steroid dressings: a case series. International medical case reports journal9, 241–245. https://doi.org/10.2147/IMCRJ.S113182