健康にいいとか、肌にいいとか、髪にいいとかという理由で、もう随分前から、ココナッツオイルは多くの人に使われていると思います。でも、医療現場でも…?と思うことがありましたので書いてみたいと思います。
① 専門医からのお勧め
② ココナッツオイルの効能:抗菌性
③ 「Virgin (バージン)」かバージンでないか
専門医からのお勧め
Long-Term Care のフロアに、糖尿病持ち+要透析+車椅子の患者さんがいるのですが、フロアの看護師から「ちょっと足を見て欲しい」と言われたので、見てみましたところ、踵と足の甲に茶色の小さいdiscoloration があって、反対側の甲も少し赤くなっていました。
肌のブレイクダウンはありません。どう見ても、この靴がちょっと小さ過ぎるだろうと思いましたが、このままDTI (Deep Tissue Injury) になられても困るので、DTIのプロトコルでケアしましょう(と言っても、DTI予防のプロトコルは、とにもかくにもoffloadingみたいな感じです。オフローディングとは、踵にプレッシャーを与えないように浮かせます)ってことで… その旨をその患者さんのPCP(主治医)に連絡しました。
そうしたところ、主治医から、大事を取って、Vascular doctor (血管外科の専門医)に診てもらって、という連絡が入ったようです。
というわけで、その患者さんは、その後何日かして、血管外科のアポイントメントに出かけました。
もう帰って来てるでしょう、と思って、フロアの看護師にアポイントメントの結果を聞くと「Bacitracin一日二回塗る、んだって」と言います。
え?…え?でも、スキンはインタクト(ブレイクダウンが無い状態)だよね?と聞くと、看護師も「そう、スキンはインタクト… でも、そういうオーダーなので…」と言います。
(Bacitracinは、抗菌オイントメント(軟膏)という感じのものです。市販で「Neosporin (ネオスポリン)」という透明の軟膏が売られていますが、あれと同じような効能です。創床に薄くsloughが見られる場合、sloughの除去及び創床を湿潤環境に保つ目的で、Bacitracinを創床に塗る場合がありますが、肌がインタクト(皮膚のブレイクダウンが無い状態)な状態で使用することはあまりありません。ちなみに、Bacitracinを塗る方が、Santylを塗るより効く気がします。そして断然安い。Santylもう少し即効性が欲しいです。長期戦すぎてMed-Surgで使えない場合が多いです。ごめんなさい、Smith & Nephewさん。)
でも、「Bacitracinか、又は…」と続くので、え?又は?又は何?と聞いたら、
「又は、ココナッツオイル一日二回塗る、っていうオーダー」と言います。
ココナッツオイル…。
そして「でも、これ、recommendってあるから、出来れば使って、くらいのオーダー」ということでした。が、それでも、ということは、Bacitracinとココナッツオイルが同じ位置に置かれてるってこと…に取れます。
家でココナツオイルを使用するのはわかるけど、血管外科医からのオーダーとは…。
看護師が患者さんに「どっちがいいか聞いて来る」と言って、患者さんに聞いてみたら、患者さんは、「バシトレイシン?何それ。ココナッツオイルを使いたい」と言ったそうです。勿論ですよね… (苦笑)。
その後、PCP(主治医)もそれでOKと許可を出したので、ココナッツオイルはフロアの看護師によってケアプランに盛り込まれました。
ココナッツオイルの効能:抗菌性
油分補給としてのココナッツオイルの効能は理解できますが、抗生物質の軟膏と同じ立ち位置としての効能は、どれくらいなものなのでしょうか。
某大学の研究で(インドの大学のようです)、ココナッツオイルとクロルヘキシジンを比べた研究がありました。
何とも大胆な比較!と思いました。クロルヘキシジンと言ったら、IVスタート(ラインを入れる時)の際や、PICCライン(セントラルライン)のドレッシング交換時の殺菌/抗菌等に使用されるものです。
そのクロルヘキシジンとココナッツオイルなどを…。
この研究では、8歳から12歳の50人の女児が25人ずつに分かれて、毎日2~3分の歯磨きの後、半分のグループの子達はココナッツオイルで、又、もう半分のグループの子達はクロルヘキシジン2%でのリンスを30日間してもらった後、虫歯の一番の原因となりうる「Streptococcus mutans」という菌によるプラークがどれくらいあったかを比較した、というものです。
この50人は、出来るだけ歯の状態をそろえるために(研究成果のために)、300人の中から歯の状態を考慮して選んだ50人で、研究は2か月間です。
結果、ココナッツオイルでのリンスは、クロルヘキシジンのリンスと同じような効果が得られた、というものでした。
もし興味のある方は、下の参考文献のところにウェブサイトのリンク(←これと同じです)がありますので、ご覧になってみて下さい。
上記の患者さんは、でも、歯ではなく、肌にココナッツオイルを、というものでしたので、肌に対しての抗菌性はどうでしょうか。
オイル類は実に種類が多く、昔から人々に薬として使われてきているオイルもあります。
下記の図(一部)は、植物油の肌や創傷治癒に対する効能です。図がぼやけているので、お手数ですが、興味のある方は、リンクから辿って、そちらのサイトでご確認下さい。(Figure1です)
さて、ココナッツオイルなんですが…、上記の図に記述がありますように、肌のバリアやリペアに効く成分として、リノール酸やリノレン酸が挙げられていますが、ココナッツオイルにもそれら成分は、多少は含まれてはいるものの、フラックスオイルシードなどに比べると断然負けちゃうわけです。Wikipediaに成分表がありましたので、見てみて下さい。へ~、油って実にいっぱいあるんですね~。油って面白そうな世界です。
でも、ここでは、Bacitracinと同じくらいの抗菌性が得られるのかな、という点では… まあ、良しとしますか!という感じでしょうか。
”バージン”オイルかそうでないか
ココナツオイルを買う際、バージンと書かれたものと、バージンでない物の違いがありますが、これの違いはどうなんでしょうか。
以前、一度、ココナツオイルを購入したことがありますが、バージンとそうでないかの違いは、コールドプレスか加熱かの違いで、栄養価が違ってくる、というものでした。加熱すると壊れてしまう栄養があるため、結局、コールドプレスした「バージン」の方が、自然の食品が持つ栄養価 (natural nutrients) が高いよ、ということでしたが、それは主に食用の場合でした。
肌につけても、肌から体内への吸収はあるわけで(痛み止めやニコチンのパッチなども肌から体内に吸収されます)、そうなるとバージンだよね、ということになると思いますが、それ以外はあまり大差なかったです。
個人的には、バージンかそうでないか以前に、ココナッツ類全般が、匂い的に苦手なので、最初から選ばないのですが、そのように、油分には独特の香りがありますので、それも選択の際の要素になると思います。
余談:
独特の香りと言うと、以前、健康にいいと言われて、フラックスシードオイル(亜麻仁油)を買ったことがあります。これは私的には、まさに「高菜」の香りというか、そういう味で(食用でした)、熱を加えないで食用のこと、ということで、「うーん」と悩んでしまったのですが、これは「納豆」に入れると、超解決!でした。納豆に高菜を入れてる感じ。というか、混ぜると、いい意味で全く香りもなくなるのでした。でも、じゃあ、納豆に…と思ってたら、フラックスシードオイルの独特の香りが全く気にならない私の娘がジャンジャンいろんな食べ物(サラダとか)に既に使用していて、あれ?と言う間に無くなってしまいました。娘はココナッツオイルの独特の香りも気にならないようです。本当に人の味覚臭覚はいろいろです。
最後に… 「医療現場」とタイトルに書きましたが、Long-Term Careのフロアがたとえ病院内にあったとしても、そこにいる患者さん達は、そこに「住んでいる」のであって、医師の定期的な訪問は普通にありますが、彼らは「患者(Patient)」よりも「住人(Resident)」と呼ばれます。というわけで、ココナッツオイルは、ご自分で適宜つけてもらってます。と担当の看護師さん曰く。
参考文献
Lin, T. K., Zhong, L., & Santiago, J. L. (2017). Anti-Inflammatory and Skin Barrier Repair Effects of Topical Application of Some Plant Oils. International journal of molecular sciences, 19(1), 70. doi:10.3390/ijms19010070. Retrieved from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5796020/
Peedikayil, F. C., Remy, V., John, S., Chandru, T. P., Sreenivasan, P., & Bijapur, G. A. (2016). Comparison of antibacterial efficacy of coconut oil and chlorhexidine on Streptococcus mutans: An in vivo study. Journal of International Society of Preventive & Community Dentistry, 6(5), 447–452. doi:10.4103/2231-0762.192934. Retrieved from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5109859/