足に出来た糖尿病性の潰瘍は、治療に時間がかかります。状態によっては悪化の一途をたどり、最後に指や足の一部を切断しないといけない残念な結果になる可能性もあります。
糖尿病がある人は、特に、neuropathy (末端神経障害) がある人は、足に潰瘍を予防するため、足のセルフチェックを毎日する必要があります。小さい傷が出来ていても、痛みを感じにくいので、気付かないケースがあるからです。
なので、糖尿病が進んでいると思われる患者さんには、デフォルト的に、「足のチェックを毎日しないと駄目ですよ」というアドバイスを医療従事者よりされます。
そして、そう言われると、答えは勿論「はい、わかりました」となるわけなのですが…。
某wound care 雑誌の春号に、糖尿病がある患者さんを対象に行われたQualitative (数値ではなく、インタビュー等を通して得たデータ) リサーチ結果のシステマティック・レビューが載っていました。
その結果を見ると、糖尿病性の潰瘍がある患者さんにとって、毎日の足のセルフチェックがいかに難しいものであるかということがわかります。
調査対象となってくれた方達の状況は様々で、糖尿病は1型及び2型、潰瘍が有る人、無い人、完治した人、怪我による創傷、また、医療従事者等です。
調査結果
前述のとおり、調査は、「quantitative」ではなく「qualitative」なので、結果も文章で出ています。
そのうちのいくつかを挙げてみます。
- 足のセルフケアに関して、患者側と医療従事者側の認識に違いがある。例えば、患者の中には、足を洗うのではなく、アルコールで拭くことが正しいと信じている人もいて、毎日のケアが却って足の病変を引き起こす原因となっていた。
- 患者の中には、血行の悪さだけが潰瘍の原因だと信じている人もいた。
- 患者の中には、潰瘍の治療前、治療中、治療後の、どの段階においても、糖尿病についての知識が無く、突然の手術など、次に起こることに対しての心配が大きい。
- いろいろな事(足の切断手術等)が、どれも突然やってくる気がする。
- 毎日、足のチェックをしていても、チェックそのものの知識が無いのでよくわからない。
- なかなか治らない潰瘍の治療のために、毎日の生活に制限があり、また、潰瘍の再発や足の切断の可能性に対する不安にさいなまされ、鬱っぽい気分に陥る。
- 足の専門医は、患者がセルフケアを充分にしないことを指摘する一方で、患者は、潰瘍は専門医が治してくれるものだと信じてしまっている。
- 医師からのセルフケアの情報は、一般的なもので、個々の患者さんの状況に沿ったものではなく、治療に対する忠実性の低さにつながる。
- 患者側も医療従事者側も、足のセルフケアを効果的に行う事に対するバリアがあると感じている。
- 足の専門医は、患者がなかなか足のセルフケアをしてくれない、と感じている一方で、患者側は、医療従事者側が、足のケアに関する適切なリソースを貰えていないと感じている。
- 患者が、足の定期検査の重要性を理解していない。
- 足の定期検査は、潰瘍が無い段階においても重要なものであると理解していない。
- ちょっとした潰瘍は、市販の抗生物質クリームを塗ったり、オリーブオイルを塗ったり、塩水に浸けたりして、自己流で治療しようとする。
- 潰瘍ができても、潰瘍の状態がひどくなるまで、あまり気にしない。
- 自分に潰瘍のリスクがあることすら気付いていない。
これは一部抜粋ですが、これを読むと、さらっと「毎日、足を自分でチェックしないといけませんよ」と優しく言っている場合ではない、という事がわかります。
また、言っても、あまり耳に入っていない事実も念頭に置かなければいけないです。
看護師の口からは言いにくいのですが、やはり患者さんがセルフケアに対して真剣になるのは、「足の切断リスク」が医師の口から出た時です。
医師の中には、バシッと言ってくれる人もいて、それはそれで助かります。ともすれば、不要な脅しじゃないか、という捉え方もあるわけで、なかなか言いにくいのも事実です。
患者さんの足のチェックに関しては、各患者さんのバリアを理解して、状況や能力に合わせたケアプランニングを作成することが必要です。
バリア
足に手が届かない。
足が見えない。
何をどうチェックするべきなのかわからない。
毎日入浴する習慣がない。
家族の協力が得られない。
セルフケア自体を思い出さない。
重要性を感じない。
現実を見たくない。
考えたくない。
Reference
Oni, D. (2020). Foot self-care experiences among patients with diabetes: a systematic review of qualitative studies. Wound Management & Prevention, 66(4), p.16-25.