創傷治癒に必要な三つの栄養素
創傷治癒に於いて重要な役割である、三つの栄養素と言えば、ビタミンA、ビタミンC、そして亜鉛(Zinc)です。これらの栄養素が創傷治癒に関して、実際にはどのように関与しているのでしょうか。
創傷治癒と「ビタミンC」
ビタミンCは、主にコラーゲンの生成と形成を促進し、また、ビタミンEと共に細胞をダメージから守ります(antioxidant)。
この他にも、免疫機能を整えたり、繊維芽細胞の機能を整える役目もします。
ビタミン不足が原因で起こる壊血病のために、大昔の大航海時代(マゼランとかキャプテン・クックとか)の船員達が多数命を落としたという話は有名ですが、このようにビタミン不足、特にビタミンCの不足は、深刻な健康状態を引き起こします。
創傷治癒と「ビタミンA」
ビタミンAの働きは、特に、治癒が進んで傷床が閉じる段階の上皮化(epithelialization)に関与します。ここでもコラーゲンの働きが大事で、ビタミンAは、コラーゲンの堆積(deposition)に貢献します。
傷が治る時は、この段階は、日々、肌の細胞が傷床の中心に向かって動いて行くので、毎日見るのが楽しくなるくらいです。治る場合は、です。治って欲しいです。
創傷治癒と「亜鉛(Zinc)」

牛肉、豚肉、牡蠣、カニ、等々
何故か亜鉛だけZincと書きたくなりますが、「亜鉛」という言葉に個人的になじみがないせいかもしれません。カタカナ書きもちょっとしっくりこないですね…。
創傷治癒に於ける亜鉛(Zinc)の働きは、細胞の代謝、主に、コラーゲンのフォーメーション(形成)を促進する、ということにあります。創傷治癒にコラーゲンはとても大事です。(ちなみに、ここ、資格試験に出ます。)コラーゲンの生成と形成は違います。形成は、出来たコラーゲンが連結する状態で、治癒後の肌は細胞がきちんと揃ってないので弱いのですが、コラーゲンが連結(綺麗に連結して並んでるわけじゃないです)することによって肌に強さを与えてくれます。また、肌細胞の壁(cell membrane)をしっかりさせるのにも関与します。
実際の現場で…
週に1回、Rehab・Sub-Acute(リハビリ)フロアのミーティングに出席するのですが、そのミーティングで、担当看護師や栄養士が(創傷の患者さんに)「サプリメントは要らないの?ビタミンCは?Zincは?Juvenは?」と聞いて来る時があります。
患者さんの状態にもよりますが(重度の下痢やその他の疾患等)、特別にビタミン剤やZincを創傷の患者さんに出すことはほとんどありません。
栄養に重きをおいてないわけでもありません。
Zincのサプリメントをほぼ出さない理由は、下記のような理由からです。
1)Zincは、Zinc deficiency のラボ結果が出てないなら特に出しません。気になるなら、気になる貴方(担当看護師)が医師にラボをお願いして下さいのスタンス(その旨を看護師に伝えます。実際に医師にラボをお願いする看護師は皆無)。
ラボの結果、Zinc Deficiencyと出た場合は、短期で処方的に一日220mgとかのオーダーが出されます。220mgという量は、一日に必要な摂取量が10~15㎎だとするとかなり多いですが、Zincは食物繊維にくっつく性質があり、そうすると体内に吸収されないので(くっついてる分は)、くっついてない部分だけが吸収されるとなると吸収が悪いので多めに出るようです。この量をずっと出すと、前述のとおり過剰摂取となる可能性もあるので、短期で、様子を見ながら、という感じです。
2)Zinc, Zincと言うけど、Zinc Toxicityも存在するし、取っている薬との関係や、併存疾患との関係もあるので、きちんと医師に聞いて許可を取ってからではないと駄目です。
3)Zinc, Zincとサプリにばかり頼らず、ちゃんと食事のサポートをしてあげることのほうが重要だと思います。食事が出来ない特別な理由が無い限り、栄養はできるだけ食事から摂って欲しいです。高齢者の方は栄養ドリンクがサプリ的に出ている場合があって、Zincがそこに比較的高い%で含まれている場合があるので、それで良しとする場合も多いです。ご家庭で褥瘡があって食が細い高齢の方がいらっしゃる場合は、このような総合栄養ドリンクを利用すると安全かと思います。また、マルチビタミン+ミネラルが既に処方されている場合もあります。
糖尿病がある患者さんには、総合栄養ドリンク「Ensure」の糖尿病の患者さん用「Glucerna (グルサーナ/グルセルナ)」が出たりするのですが、これにはZincが一日の摂取量の25%が含まれると言われています。
アマゾンで見たら、日本のものはアメリカのとはパッケージが違うようですが、栄養価的には同じかな、と思います。一応リンクを貼っておきますので、興味のある方は見てみて下さい。
4)栄養士の方、私に詰め寄らないで… サプリメント系のオーダーは、通常は栄養士が医師の許可を得て出します。
もしZincに関して興味のある方は、ソースがしっかりしてそうな参考文献を探してみましたので、下のリンクからご覧になってみて下さい。
私がビタミンCのサプリメントを出さない理由:同じく、私が安易に出すべきじゃないから…。
患者さんによっては、血液をサラサラにする薬を取っている人もいるし、透析の患者さんもいます。ビタミンCは不要な分は尿と共に流れるからいくら摂っても大丈夫よ~と思っている人もいるかもしれませんが、Toxicityもあるわけで、創傷治癒にビタミンCが効くからと言って、サプリを出してもらったり、私はそんなに安易にできません。
同じく、食事からの摂取をお勧めしたいです。
Reference (参考文献):
National Institute of Health. (2019). Zinc. Retrieved from: https://ods.od.nih.gov/factsheets/Zinc-HealthProfessional/
10/29/2019
高齢の患者さんで、褥瘡がステージ2から3になってしまった方がいて、今日出されたオーダーです。参考までに…。
Zinc Sulfate (Zinc) 220 mg PO Daily for wound healing
Ascorbic acid (vitamin C) 500 mg PO Daily for wound healing