糖尿病性潰瘍 (DFU) の予防

  • COVID-19 と DFU、DFUリスクが高い傾向にある人々 (population)
  • DFU 患者に求められるセルフチェック
  • 足の専門医へ
  • 開発希望商品

COVID-19 と DFU、DFUリスクが高い傾向にある人々 (population)

COVID-19の感染が世界的に始まってから、医療現場ではコロナ患者さんのケアが中心になってしまうことで、その他の疾病のケアが滞ってしまう傾向にありました。イタリアでの某報告によると、糖尿病性の潰瘍 (Diabetic Foot Ulcer/DFU) による足の切断リスクは、COVID-19パンデミック以前と比較して、3倍にも増加しているようです(Boulton, 2021)。

DFUリスクが高い人達の特徴は、(a) 高齢、(b) 男性、(c) 血糖値コントロール不良、(d) 高血圧、そして、(e) 併存疾患がある、となっています。また、これらのリスクは、COVID-19で重症化(入院になる)するリスクとほぼ同じです。COVID-19のリスクは、最後の (e) が心臓疾患となっています (Boulton, 2021)。

DFUは、糖尿病の数々の症状のうちの1つですが、末期の症状とも言えます。DFUが起こる際は、大体は、何か小さな物や鋭い物(釘や小石など)を踏んだり、というような小さな傷から始まります。通常私達は、どんな小さな物を踏んでも気が付きますが、糖尿病患者さんは、末端血管及び末端神経がうまく機能していなため、その小さな傷に気がつかず、そのうち大きな傷に発展してしまいます。そして、靴下についた血を見たりして、気付いた時には、結構な潰瘍になっていることがほとんどです。

DFUは、最初は比較的小さめなので、切羽詰まった感が足りず、受診が遅れる患者さんも多いです。また、外来への伝え方がやんわりの場合は、先まで予約を入れて貰えなかったり、ERを訪れても、軽く処置されて家に帰されたり、本格的に治療を始めるまでにあっという間に日数が経っている場合も多々あります。

DFU 患者に求められるセルフチェック

DFUの患者さんやDFUハイリスクの患者さんが外来に来た場合、多くの場合、患者さんがプロバイダーから言われるのは、日々のセルフチェックです。

日々のセルフチェックは、肌の状態、傷の有無、肌の温度、腫れ、色、マメやタコ(角質)の有無などを確認する作業です。

このセルフチェックに加え、足を毎日洗う、指と指の間を含め足をきちんと乾かす、肌の保湿をする、爪を正しく切る、なども指導されます (IWGDF, 2019)。

しかしながら、DFUを患う患者さんのほとんどは、このような毎日のセルフチェックを行うのは極めて困難で、それはリサーチでも報告されています。

DFUを患う患者さんの多くは、高齢で、まず (a) 自分の足に手が届かない、(b) 自分の足が視力的に見えない、(c) 状態を見ても、その状態が良いのか悪いのか判断できない、(d) 外来に自分で来る交通手段がない、などという状態にあります。爪を切るなどは無理に近いです。

そのような患者さんの状態や環境を知らず、ただやみくもにセルフチェック・セルフケアを求めたところで、良い結果は得られません。1人の高齢の男性患者さんは、厚くて変色した足の爪がありましたが、「大丈夫、今度、ガレージにグラインダーがあるからそれで削ってみるよ」と言うのでびっくりしました。

足の専門医へ

上記のような患者さんは、足の専門医に送ります。「とにかく、自分でやって怪我したら大変だから、足の専門医の予約を入れるから、そこで切って貰って下さい」と言って、爪切りを止めました。

足の専門医は、病変のある足の爪を切ってくれるだけでなく、DFUハイリスクの患者さんの足の状態もチェックしてくれます。足の爪は、通常、二カ月に一度切るので、その度に足全体の状態をチェックしてもらう事が可能です。

足の専門医の受診は、病変が有る場合(爪の状態も含め)健康保険でカバーされます。中には、節約も兼ねて、高齢者の患者さんをペディキュアのお店に連れて行く家族の方がいます。ペディキュアのお店に行くのは、それはそれで良いですが、糖尿病が有る場合は、きちんと足の専門医に診て貰う方が絶対に得策です。

ペディキュアを塗ると、爪の色が隠されて見えないばかりか、逆に傷をつけられて帰って来る人もいます。そこで菌を貰ってくる人もいます。ペディキュアのお店に行くのに反対してるわけでは全くありませんし、きちんと感染対策をされているペディキュアショップも大半です。あくまで、ハイリスクの方は是非、足の専門医へ、というお勧めです。

開発希望商品

一番言いたかったのは、実はここです。

前述のように、DFUハイリスクの患者さんが足のセルフチェックを毎日するのは、現実は極めて難しいです。若い方は油断する人が多く、高齢の方は上記のような弊害が多い。

そこで、このような商品があればいいのにな、といつも思っているものがあります。

それは、下に描いているような、シンプルな箱状のチェックボックスです。足が入る大きさの箱で、シンプルにON/OFFボタン、と、赤/緑ライトのみをつけます。

赤が点いたら「診て貰って下さい」、緑が点いたら「異常なし」です。

現在、「wearable」なDFUチェックシステムが既に開発されてはいるようですが (Tang et al., 2021)、そのような医療従事者向けではない、もっと一般の人の手の届く商品が必要です。

患者さんの家にこの箱状のチェックボックスがあったら、毎日この箱に足を入れて、ONボタンを押すだけで良いのです。ドラッグストアに置いてある、とかでは駄目です。そこまで行く人はいませんし、感染対策も大変です。他人と共有しないことが大切です。

この箱は何かに反応しなければいけません。何に反応できるかな、と考えた場合、肌のpHかと思いました。又は肌の温度。又は両方。温度だけでも、pHだけでも駄目でしょうし、もっと他のバイオマーカーがあるかもしれません。

人の肌のpHは、通常は酸性に傾いていますが、一旦肌が傷つくと、その下の組織はアルカリ性です。そういった何かに反応して、病変をお知らせする安価で手に入る箱を、開発していただけたら、潰瘍を本当に初期の段階で早めに見つけて治療できると思うのです。

DFU wound detector box

DFU wound detector box

Reference

Boulton, A. (2021). Diabetic foot disease during the COVID-19 pandemic. Medicina57(2), 97. https://doi.org/10.3390/medicina57020097

Tang, N., Zheng, Y., Jiang, X., Zhou, C., Jin, H., Jin, K., Wu, W., & Haick, H. (2021). Wearable sensors and systems for wound healing-related pH and temperature detection. Micromachines12(4), 430. https://doi.org/10.3390/mi12040430

The International Working Group on the Diabetic Foot [IWGDF]. IWGDF Prevention guideline. https://iwgdfguidelines.org/guidelines/guidelines/