慢性下肢潰瘍の治癒期間を短縮するドレッシング材の紹介

1.慢性下肢潰瘍の平均的な治癒期間

2.ドレッシング材

3.使ってみた感想

創傷ケア業界では、新しいドレッシング材が日々開発されています。熾烈な戦いが繰り広げられてると言っても過言ではありません。

某雑誌に、新しく商品化されたドレッシング材を使用することにより、慢性的な下肢潰瘍の治癒期間が半分以下にまで短縮されたという記事がありました。(参照記事は下記)

今日は、その記事に掲載されていたそれら数種類の新ドレッシング材を紹介したいと思います。そして、最後に私の勝手な見解も加えたいと思います。

慢性下肢潰瘍の平均的な治療期間

記事内で紹介されていたリサーチは、30人の患者さんが対象で、年齢も40代から100歳代までとばらばらです。潰瘍のサイズも大小様々ですが、平均値としては37㎝2。治療期間の平均は、約21週間でした。5~6か月というところでしょうか。

これは、新しいタイプのドレッシング材を使用する前です。

この治療期間が、新しいタイプのドレッシング材を使用することで、約6週間にまで短縮できた、ということでした。約1か月半です。これはすごい短縮率です。記事では73%と書かれてあります。

正直、ちょっとびっくりしてしまいました。それは一体どんなドレッシングなんだろう?という気持ちで記事を読みました。

期間短縮に貢献したとされるドレッシング材

では早速、記事内で紹介されていたドレッシング材を挙げてみたいと思います。

1.Matrix of Collagen dressings

DermaCol Collagen

Puracol Plus Collagen

Biostep Collagen Matrix

2.Alginate dressings

Alginateドレッシングは、海藻由来のファイバーで、ドレイネイジがある潰瘍に使用されます。

Calcium Alginate

Sodium Alginate

Silver Alginate

Zinc Calcium Alginate

3.CMC (Carboxymethylcellulose) dressings

CMCは、水分を包み込む作用があるので、食品用に使用されることが多いです。例えば、誤嚥リスクのある人が飲むトロッとした水や味付きの水などがそうです。セルロースは「ボディ」を加えるのに使用されます。ドレッシング材のファイバーは、ドレイネイジの吸収に優れています。

Gelling Fiberなどがこの種類に入ります。Gelling Fiberにはsilver(Ag+) のものもあります。

4.EDTA (ethylenediaminetetraacetic acid) dressing

EDTAは、エデト酸またはエデト酸ナトリウムと呼ばれる水溶性の塩で、食品をはじめ、化粧品や医薬品など様々な分野で広く使用されています。

anti-microbialおよびanti-biofilmの特性があるので、創傷ケアにも使用されます。

AQUACEL Ag Advantage (Wound Source Website)

使ってみた感想

実際にドレッシング材を使ってみた感想や手応えを書いてみたいと思います。あくまでも私の場合なので、マイナスな意見の部分は読み流していただけたら嬉しいです。

コラーゲンのドレッシング材

コラーゲンのドレッシング材を使用した時は、患者さんやフロア看護師さん達のドレッシング材に対する理解が浅くて、何時間か後に既に捨てられていたり、ということがありました。教育というのは本当に難しいな、と日々感じています。看護状況と商品価格や手に入りやすさの折り合いが難しいです。

医師が使ってくれたり、使用のオーダーを出してくれたら結構いけるんじゃないかな、と思います。なにせ私は看護師の立場なので、商品購入時には、いかにこの商品を使うことにより良い治療結果が得られるかを立証しないといけないのです。じゃないと購入の許可が降りないのです(涙)。

過去投稿:治りの悪い褥瘡にコラーゲンドレッシング

5-レイヤーのドレッシング材

ドレイネイジを内側に閉じ込める的な点を利点として謳っているドレッシング材です。ですが、だったら3日4日はいけるね、となってしまったら失敗します。外来(Outpatient setting)だと危険です。次の診察時に「うわ~(涙)」になってしまう危険性大です。入院患者さんの場合は、毎日とか、もっと頻繁にチェックできるので使ってみても良いでしょうが、それでも魔法のドレッシング材ではありません。頻繁にドレッシング材を替える方が有益です。

価格もすごく高くなる、というわけではなくて、圧倒的なシェアを誇るMepilexのドレッシング材よりも若干高いくらいです。ドレイネイジ量が多い、例えば、Comfort careの患者さんの褥瘡などに向いているかもしれないな、と思います。Comfort Careというのは、End-of-Lifeなどの患者さん用のケアの呼び名で、治癒目的というより、できるだけ快適にゆっくりしていてね、というようなケアです。

Alginate Dressing

Alginateのドレッシング材は、それだけだとanti-microbialじゃないので、潰瘍によっては、シルバー系を使用することになります。Ag+ Alginateです。

ただのシンプルなAlginateは… 時々使用しますが、Alginateを使用するってことは結構なドレイネイジ量があるということ… 。となると、Alginateだけを使用したからと言って、上記のような73%の期間短縮には簡単にはつながらないんじゃないか、と思います。

Gelling Fiber

これも悩ましいドレッシング材です。悪くはないです。でもシルバーになると高価で、悲しいかな「本当にこれが必要なんですか?」となることもあります。

ドレイネイジを吸うとトロッとした感じになります。長細くリボン状に切ってパッキングすることもできますが、最初はゴワっと硬いので、パッキングストリップの代わりにはなりません。

でも、シルバーなので、繰り返しますが、悪くはないです。施設で購入を許可してくれたら、まあ、いいかな、という感じです。無かったら、Ag+ Alginateドレッシング、といったところでしょうか。または、Dakin’s solutionです。

AQUACEL Ag Advantage

私が使用したことがあるのは、術後用の周りが強力なハイドロコロイドのボーダーになっているドレッシングです。ピチッと強力にIncision lineを保護する感じです。術後のドレイネイジもきちっと吸います。なかなかいいですが、難点を挙げると、医師が手術箇所をササっとチェック出来ない、あまり頻繁に交換するとなるとコスト高、などの点でしょうか。

実際、中にドレイネイジをContain(包み込んでいる状態)していると、ドレッシング材は交換しないといけないです。ということは、そのドレッシング材の吸収許容範囲を超える量のドレイネイジですよね。それが毎日、となったら、使うのはこのドレッシング材じゃないんじゃないか、という感じです。

最後に

73%の期間短縮ってすごいですね…

一つ補足ですが、読んだ記事はどちらかと言うと、コマーシャルに近いポジションにあります。

参考文献(Reference)

Gonzalez, A. (2022). Use of a new dressing protocol in chronic lower extremity wounds on homebound patients: a retrospective study. Wound Management & Prevention.