肥満外来

肥満はきちんと治療されるべきだと思うのです。

■肥満によって引き起こされがちな病気

■治療されない病気

■普通の減量ダイエットでは難しい

■現状

■肥満によって引き起こされがちな病気

先日外来に来られた患者さんは、「hidradenitis suppurativa」という皮膚疾患でした。日本語では「化膿性汗腺炎」といいます。化膿した肌の炎症が、脇の下や胸の間、胸の下などに出来ます。皮膚の内部で膿のトンネルが出来ていることが多く、一旦治まったとしても、また繰り返し炎症が起こるので慢性的になります。(参照:www.mayoclinic.org)

この症状にはリスクファクターがあって、その1つが肥満です。来られた患者さんも、肥満の方で、症状は中学生の頃から始まったそうです。

このように、肥満がリスクファクターとなりうる疾患は多数あります。

  • 二型糖尿病
  • 高血圧症
  • 脂質異常症
  • 心臓病
  • 変形性関節症

などがその一部です。(参照:www.cdc.gov)

このような疾患を持っている患者さんは、それらを複数併せ持っていることが多く、診断名も1つではありません。そしてその診断名の1つが「obesity (肥満)」となっていることが多いです。

■治療されない病気:病気なのに治療されない

患者さんは、診察室で高い確率で「体重を減らすことが望ましい」と告げられます。しかしながら、「治療の一環で体重を減らしていこう」という流れにはなかなかなりません。

体重を減らすべきと告げられると、患者さんは「はい、そうですね」と答え、通常はそこで診察が終わります。そして、そこから真剣な減量を始める人はまずいないと言ってよいでしょう。

肥満は、患者さんの自己責任とは言い難いです。患者さんはそもそもいかに肥満が自身の疾患の要因となっているか、治療の妨げとなっているかを理解していない筈だからです。

また、同じように、医療従事者側も、肥満も治療の一環としてフォーカスすべき、という考えはあまり無いように思われます。更に、報告によると、多くの医師(Healthcare Providers) は、肥満の患者さんに対して固定観念があり、そのような偏見や固定観念が治療に影響している、とあります。そして、このような偏見や固定観念を持っていた場合、患者は敏感にそれを読み取るので、治療に来るのを辞めたりする結果になることも報告されています(Evert & Franz, 2017)。

医療従事者側は、要因となっている肥満そのものを治療しなくても、保険会社からの支払い料には関係ないため、大概は、メインの疾病だけを治療します。

この状況を好転させることが出来るのは、保険システムのアップデートにあると信じています。何故なら、アメリカの医療は、政府系の保険システムの規約にもとづいて運営されていると言っても過言ではないからです。

もし保険会社が「肥満も治療して初めて保険の支払いが生じる」と言う方向でルール変更をしたら、肥満はれっきとした疾患として治療されるに至るでしょう。残念ながら、現在ではそのようなシステムにはなっていません。

■普通の減量ダイエットでは難しい

通常のダイエットは、消費カロリーより摂取カロリーが少なければ、痩せる方向になります。単純に言うと「食べなければ痩せる」ことになっています。

しかし、肥満のレベルになると、そんなに単純なことでは肥満は解消されません。体重の増加や減量は、体内のホルモンバランスによるところが大きいとされていて、肥満になると、その各種ホルモンのバランス関係が更に複雑になります。

例えば、肥満の人に高い確率で起こってしまう糖尿病にはインスリンという薬が使用されますが、インスリンは、人間の体内で自然的に生産されるホルモンです。インスリンには、脂肪の分解を遅延させる性質があり、糖尿病を持つ方は、治療薬としてインスリンを使用している場合も多く、結果的に脂肪の分解速度を緩めます。

また、レプチンというホルモンは、飢餓を防ぐ役割を果たすとされていて、レプチンの生産性が下がると食欲が増進し、結果的に必要以上に食べてしまう結果になります。

更に、肥満はドーパミンという脳内物質の量にも深く関係しており、高脂肪そして糖分の摂取量に影響します。

この他にも様々なホルモンが絡んでおり、肥満の状態になったら、単に食べ物の量を減らす、とか運動をする、とかいうことでは望ましい効果を得ることは難しい、ということになります。そしてそれには医師の指導に基づいてきちんと治療する必要があります。

■現状

実際、肥満を外来治療するべくプロバイダーを探してみるとしましょう。まずはウェブサイトに行ってみる人が多いと思いますが、そこで目にするのは、多くが、心理的なセラピストです。摂食障害の観点からの治療ということです。摂食障害は、Behavioral health(行動保健学)、いわゆるメンタルヘルスの領域です。

心理セラピストやカウンセラーの他、ナースプラクティショナーである場合もあります。肥満に関しては、内分泌科の医師よりも、精神科医であることのほうが多いようです。

Reference

Evert, A. B., & Franz, M. J. (2017). Why Weight Loss Maintenance Is Difficult. Diabetes spectrum : a publication of the American Diabetes Association30(3), 153–156. https://doi.org/10.2337/ds017-0025