アメリカの高齢者施設/Long-Term-Care

仕事で高齢者が多くいる、Long-Term Care Unitによく行きます。いわゆる老人ホームのような施設です。

Long-Term Care Unitは、必ずしも「高齢者」だけの施設とは限りません。術後のリハビリを含む場合も多いし、身体が不自由で24時間のケアが必要な方の中には比較的若い人もいます。しかし、一般的な入院患者は高齢者が占める割合が高いですし、実際はやはり高齢者が多いです。

ここでは、家族をLong-Term Care という類の施設に入居させる場合のちょっとした注意点について書きたいと思います。何故なら、最近、いつも苦情たっぷりの新しい入居者さんの部屋を訪問する機会があって、思うところがあったからです。

■アメリカの高齢者施設の種類

■費用

■入居前のチェックポイント

■入居後のポイント

■アメリカの高齢者施設の種類

高齢者施設には種類があり、大きく二つに分けられます。

(1)24時間看護師がお世話をしてくれるLong-Term Care施設と、

(2)ある程度の自立した生活が可能な方向けのAssisted Living、です。

(1)のLong-Term Care は、Sub-acute care (病院退院直後のケア)と混合になっている施設が多いです。何故ならば退院後の受け取り先を探すのが大変な病院側のニーズに出来るだけ対応するために、Sub-acuteの設備を整えておく必要があるからです。

(1)のLong-Term Care には、正看護師、准看護師、看護助手、ケースマネージャー、フィジカルセラピスト等、各種セラピストが常駐しており、常勤または非常勤の医師や薬剤師さんもいます。食事は各人のケアレベルに合わせて用意され、外出も認められます。

(2)のAssisted Livingは、建物の中がアパートのようになっており、各自がキッチン付きの一部屋または二部屋の住居空間の中で生活します。多くのAssisted Livingでは、安否確認及び機能レベル確認を兼ねて、夕食は高級レストラン風のダイニングでとる場合が多いです。機能レベルが低下した場合の対応については各施設によって違います。ケアギバーさんを付けてそのままそこで生活してもよい場合や、他のもっとケアを施してくれる施設に移るなど、オプションは様々です。

■費用

高齢者の施設は、ざっと月額で数千ドルです。これに、フィジカルセラピストの費用や、創傷があった場合は、それらのケア代などが全部加算されていきます。

保険でLong-Term Care費用をまかなう場合は、保持している個人資産を処分して政府系の保険に切り替える必要があります。それをしない場合は、複数の家族(子供達など)がお金を出し合って支払う形になります。

部屋代は、透明性を持って、施設の廊下などに張り出されているので、訪問した際、見たり聞いたりできます。1人部屋、2人部屋が多いですが、中には3人部屋というのもあります。私は個人的に3人部屋以上の部屋は見たことがありません。部屋の形態によっても滞在費用が異なります。

基本費用には、食事や基本的なケア用品(ティッシュペーパー、紙おむつ、歯磨き粉、等々)が含まれます。この度新しく入って来られた方が、できるだけ費用を安く抑えるため、家族に頼んでローションやシャンプー、ティッシュペーパーなどを持ってきてもらっていましたが、「そういう物は、基本費用に含まれていますので、持ってこなくていいですよ」とお伝えしました。後で、再度書きますが、入居時には、何が含まれて何が含まれないのかを確認したら心配事項が減ると思います。施設側がきちんと説明するべきですが、万が一説明が無い場合は聞いてみてください

特別なケア代(創傷ケアや、フィジカルセラピー等)は別途加算されます。車椅子やウォーカー、カスタムシューズ等は保険でカバーされることが多いです。審査はありますが、例えば車椅子なら5年に1度は購入可能、などのように決まりがあります。

■入居前のチェックポイント

思っていたのと違う、ということは残念ながら多々あると思います。

1人部屋か2人部屋か

まず、1人部屋か2人部屋か。2人部屋だと、窓側と入り口側では生活の雰囲気が違ってきます。トイレに頻繁に行く人は、トイレ側がいいですよ、と言われるでしょう。その場合は、窓が無い場合が多いです。

窓側のベッドはトイレから遠いので、トイレが近い人は、間に合わない可能性もあるでしょう。また、片方の人がずっと長い間トイレにこもっている場合もあります。

また、音の問題もあります。同部屋の人がラジオを聴いたりする音が高い。夜中も聴いている。話し声がうるさい。電話がしょっちゅうかかってくる。ウォーカーを引きずる音がうるさい。多くの場合は、スタッフが音に対して規制を設けてくれることで解決しますが、相部屋の場合はそのようなリスクもあります。

臭い

臭いの問題もあります。紙おむつをつけている人が相部屋の場合、アシスタントの人がささっと来てくれてすみやかに処理してくれたら良いのですが、そうでない場合も多々あります。これはきっと耐えられない人は耐えられないでしょう。ルームメイトがどのような状態かによって生活が変わります。

テレビ

テレビが各自でなく部屋に1つ、という施設もあります。その場合は、とかく、性格の強い人が見たいものをかけている傾向にあります。入居される方がストレスなく見たいテレビが見れるような施設を選ぶといいと思います。また、それまでご自宅で見ていたチャンネルが施設でも見られるという保証はありません。見られないと思っていた方がよいでしょう。

スポーツチャンネル等、基本料金以上のパッケージは、高額なので、施設によっては入れてないところもあります。欲しいと施設に訴えても、「すみません、ここではそのチャンネルはありません」と言われてお終いでしょう。

入居前に、これは譲れない、という点を明確にしておくとよいと思います。私が訪問した最近入居したその方は、好きなスポーツ番組とニュース番組が見られなくて、鬱になりそう、と嘆いていました。

外出

外出はできます。できますが、一年の中での外出可能日数が決まっていて、あまりに外出するようだと、施設に入っていなくてもいいんじゃない?ということになります。殆どの人は、祝日などのランチを家族でする、とかいう目的程度の外出をします。

外出規制には、今のようなコロナ禍での対応も施設ならではのものあります。感染防止のため、外出は規制され、不要不急の外来予約なども延期またはキャンセルされる場合もあります。

外からの訪問も、食べ物の差し入れも受けることができません。これは、施設入居時には覚悟しなければいけないことで、これが嫌なら退去、となります。

持ち込み品

入居前は、入院と似た感覚で身一つで来られる方も多いですが、Long-Term Care にも、ちょっとした箪笥や小さめの家具、リクライニングの椅子などを持ち込める場合もあります。特に1人部屋の場合は広さも十分あるので、確認してみるとよいと思います。

衣類等も、「いい服も寄付に回して処分してきた」と言う方が、服が足りなったと嘆く場合があります。洗濯回数も限られるので、あまり服が少ないと、今日着る服がない、という結果になるので、ある程度は必要だし、その都度補充が必要なったりします。大抵は、家族がクリスマスプレゼント、などにして新しい服を追加で持って来たりします。

持ち込み品は、入居時に、「inventory sheet」に記入してコピーを持っていることが大切です。何故なら物が無くなるからです。inventory sheet には金額を書くことも出来て、物が無くなった場合は、施設側が弁償することなります。しかし、あまりに高価な物は、最初から持ち込まないよう断られるケースが多いです。

入歯や眼鏡、補聴器、ラジオなどは、必ずこのinventory sheet に書き込まないといけません。スタッフがするべきですが、スタッフが書き込まない場合、最初から存在しないとみなされる場合があります。これはとても大切です。

■入居後のポイント

入居後は、できるだけ、電話をかけて様子を聴いたり、訪問したりするとスタッフの対応も違ってきます。どんな状況でも対応は同等であるべきですが、現実問題、違ってきます。

でも、あまりに理不尽に苦情を入れる家族だと、スタッフも「もう無理」となって「他の施設に移ったほうが良いのではないですか?」と言われてしまったりするので、ほどほどに…。スタッフに感謝してくれる家族だと、スタッフもやはり人間なので、できるだけ良くしてあげようというふうになります。

また、定期的にケアカンファレンスが開かれるので、それに参加すると良いです。ケースマネージャーや看護師などが参加するミーティングで、入居者1人1人の状況について話し合います。

以上思いついたままに書きました。

創傷ケアで部屋に行くと、30分くらい部屋にいたりするので、患者さんがあれこれ言ってこられます。担当看護師さんの滞在時間は、せいぜいお薬をあげる間の2分くらいです。だから患者さんの要望や声が届かなかったりします。

先週創傷ケアで訪問した際、患者さんがあれこれ不満に思っていることを私に訴えてきたので、そのまま全て担当看護師さんに伝えました。「自分はここに来てとてもミゼラブルで鬱になりそうだ」と言うので、その旨も伝えました。その方は、部屋が2人部屋に変わる前は1人部屋で、とてもハッピーだと言っておられたので、対応次第で、またハッピーな彼に戻れるはずだと信じています。

入居される家族に施設でミゼラブルな思いをさせないためにも、入居前にはいろいろとチェックしてみてください。