■予防用サプライは保険でカバーされない件 #260

■褥瘡の患者さん15歳男子
■褥瘡は予防が大事
■予防のためのサプライは保険でカバーされない件
■認知を広めたい

■褥瘡の患者さん

外来に来た患者さん、15歳男子、は、先天性の障害のためベッドと車椅子の生活です。
飲み込むことが出来ないため、栄養は胃瘻からです。BMI(Body Mass Index)の値が8で、基本的に骨と皮と言ってもいいくらい痩せています。BMI値は、身長と体重から計算しますが、15歳男子の平均BMIは、痩せている子でも大体18~20くらいあります。

この患者さんは、involuntary movement(自分の意思でなく体が勝手に動いてしまう)もあり、皮膚がベッドにこすられる頻度も高いこともあって、皮膚のトラブルは日常茶飯事のようです。

小児科医に呼ばれて、この患者さんに初めて会ったのが1月末。褥瘡だったので、クッション性もあるフォームドレッシング材をオーダーして、お母さんには主に褥瘡部分のケアの話をしました。

しかし、その後、2月中旬頃に、今度は違う部分にも褥瘡が出来てしまったのでした。そのようなわけで、2回目に来られた時は、褥瘡の予防を中心とした話をしました。

■褥瘡は予防が大事

褥瘡に限らず、創傷は一旦出来てしまったら、治療に時間も労力もお金もかかります。褥瘡は、多くの場合、予防することが可能です。一般的な予防のポイントは、体位交換や栄養など、いろいろあります。

一般的と言ったのは、例えば、この患者さんの場合は、栄養は決められたものを摂取するのみ、というように、患者さんによって予防ポイントは異なります。ケアプランは、各々の患者さんとケアされる家族に適した内容で考える必要があります。

褥瘡の予防には、ちょっとしたグッズが役に立ちます。体位の変更や固定には、ウェッジと呼ばれる硬めのクッションが役に立ちます。踵の褥瘡の予防はオフローディング以外無いくらいにオフローディングが王道です。それには柔らかいクッション性のあるブーツが必須です。また、肌の保護には、スキンクリームを塗って肌を保護する以外に、この患者さんに使用したフォームドレッシング材などが有効です。

■予防用サプライは保険でカバーされない件

前述のフォームのドレッシング材は、市販で買ってもそんなに安くないです。一回買うだけなら、数ドルで済みますが、この患者さんのように、この先、長期にわたって、となると大変です。低所得者層の患者さんでフォームドレッシングを自腹で簡単に毎回買える人はいないんじゃないかな、と思います。

外来患者さん用に、創傷ケアのサプライは、所定の手続きを踏めば、保険でカバーされます。この患者さんにも一月に書類を作成して、自宅にケアグッズが届けられるように手続きをしました。

そして、この度、創傷ケアサプライのベンダー会社のレプに言われたのは、創傷が一旦閉じたら治療は終了なので、サプライの送付も終了します、というもの。それはそれで、その通りなのですが、それはどういう意味かと言うと、予防のためのサプライは保険ではカバーされませんよ、ということ。

更に言うと、保険が適用になるのは、何かしらのデブリーメントが施された後のみ。これにも「え?」となります。何かしらのデブリーメントには、ガーゼドレッシングの使用も含まれます。メカニカル・デブリーメントということです。これの段階をスキップすると、保険適用になりません。

褥瘡の第一段階は、ステージ1の褥瘡です。ステージ1の褥瘡の段階では、上皮組織の損傷はまだ無い状態です。「intact skin」です。保険会社が認めるところの創傷としての取り扱いは、上皮組織の損傷が有る場合です。故に、褥瘡では、現在進行形のステージ2の褥瘡からです。

でも、この患者さんに一番必要なのは、ステージ1の褥瘡の治療か、ステージ1になる前の状態。または、ステージ1にさせない状態。そしてその為には、フォームドレッシング材を保険でカバーしてもらいたい。

患者さんのお母さんも、ドレッシング材を貼っていると肌も赤くならないし、介護に安心感がある、とおっしゃっています。介護する家族が疲れたら、それこそ大変です。そういう意味でも、月にたった何枚かのドレッシング材の配布で、介護の状況は向上します。昨今のドレッシング材は、高性能なので、一枚で数日持ちます。創傷箇所が一カ所なら、一か月にたった数枚送られてくるだけで、「Quality of Life」を向上させることができるのです。

創傷ケアのサプライ等、医療におけるリソースの使用や配分は、公平でなければいけませんが、この患者さんのように、本当に必要な人が声を上げれない弱者である場合も多いです。

この患者さんの件は、ベンダー会社さんを説得できたので、予防用・保護用サプライは、保険でカバーしてもらうことが可能になりました。

■認知を広めたい

前述のとおり、予防用サプライが保険でカバーされない場合には、その人の状態にそのサプライ用品がいかに必要かを説明して認めてもらうわけなのですが、安易に一般化すると乱用される危険性もあります。

保険会社を通すと、不必要なものまでジャンジャン送ってくる傾向にあるのも問題の1つです。以前、某患者さんに「家に保険会社から送られてきたサプライが山積みなので寄付したいから取りに来て」と言われて行ったことがありますが、本当に山積みでびっくりしました。保険会社って…これほどの無駄を何とも思わないの?という程の量。

また、ドレッシング材の製造販売会社でも、そんなことまで関知しないです。昨日、某ドレッシング材の会社レプの人に、予防だと保険でカバーされない旨を訴えたら、それはホームヘルス部門の人に伝えておきますね、と言ってくれました。別にそれで何かが変わるとは思わないけど…、少しでも何かが変わっていってくれたらいいな、と願いながら、毎日勉強させていただいてます。