■糖尿病性潰瘍の治療にレグラネクス (Regranex) #137

■足裏の糖尿病性潰瘍の治療

■市場シェア100%

■結論から先に

■副作用

■ブラック・ボックス・ウォーニング (Black Box Warning)

足裏の糖尿病性潰瘍の治療

足裏の糖尿病性潰瘍の治療は、ハイドロジェル、生食でのwet-to-dry、wound VAC、皮膚移植的な手術、等々、多岐に渡ります。患者さんの状況や潰瘍の状態によって決まりますが、とても大事なのは、圧力を加えないこと、で、患者さんは圧力がかからないように、ロボットみたいなブーツを通常履きます。

その他に、ギブスみたいなブーツ(Total Contact Casting)もありますが、うちではやってくれる人がいないので、私は個人的には遭遇したことがないです。でも、それが本当は「Gold Standard (王道)」と言われます。

#130のところで書いた、足裏に糖尿病性潰瘍がある患者さんが、先日フォローアップの予約があって、クリニックに来られました。

メディカル・ハニーで自宅でケアをしていて、どんな感じになっているか、見るのを少し楽しみにしていました(私)。

創傷は、1cm x 1.2cm x 0.5cm (深)、円形で、undermining (エッジ・ふちの下にポケットがある感じ) が出来ています(これ以上、ポケットが深くならないように…と思います)。

そういうポケット (undermining) が出来てしまう原因は、インフェクションだったり、圧力がかかりすぎだったり、何かしら理由があります。

見た感じ、創傷周りの皮膚が厚くなっていて、この角質 (Callus) は、来週、フットドクターに削ってもらう予定になっています。

でも、この硬く厚くなっている角質から、出歩く頻度が多すぎるのでは… と思ってしまいます。

wound bed は綺麗で赤くて、医師も「お~、いいんじゃない?」と言います。

そう、状態も比較的良くて、いい感じ…。

なのですが、ハニーでの治療は、もう2,3週間経ってるので、良い状態を保ちながらの状態維持、という感じで、悪くはないのですが、可もなく不可もなく… それ程の見てわかるような進展もない感じです。

このような潰瘍は長くかかるのは承知しているのですが、でも、やっぱりちょっとは進展も欲しいです。

というわけで、医師と、じゃあ、「Regranex」はどうだろう、やってみますか?という話になりました。

市場シェア100%

Regranexは、言い方としては、レグラネクスの「ラ」が高い感じに言います。

Regranexは、Smith & Nephew社が出している3大創傷ケア商品のうちの1つです。Santyl同様、市場シェア100%みたいな商品で、類似品がありません。Smith & Nephew、結構凄いんですよね…。

Smith &Nephew社 3大創傷ケア商品

Santyl Oasis Regranex

Regranexは、ジェネリック名を「becaplermin」と言って、FDAが承認した初の血小板由来の成長因子 (PDGF)です。英語では、”recombinant platelet-derived growth factor”と言います。Recombinantの部分は、私が変に説明して誤解を招いたら困るので、説明は控えたいと思います。

そして、この成長因子(GF)が、fibroblast (繊維芽細胞)を刺激して、グラニュレーション組織を増強してくれる、というものです。

価格もSantyl同様高額(同じような値段という意味ではありません)で、15gのチューブ一本が$600くらいします。

高いのですが、これはちゃんと、患者さんの保険でカバーされるかどうか事前に確認されて、ファーマシー(市中のではなく、指定のファーマシー)が、患者さんと連絡を取り合って、確認してから自宅に送られてきます。なので、後からびっくりするような請求書が送られてくる、ということはありません。

患者さんも、「保険がカバーするのなら、治る薬は何でもいいから使いたい」と同意はされましたが、この段階では、まだ医師とちゃんと話し合っていなかったので深くは言及しませんでした。(薬を使用する時は、どんな薬でも、患者さんの同意がないと使用する意味がありません)

結論から先に

結論を先に言うと、一旦、医師からのオーダーは頂いたものの、この薬は、使用できないことになって、医師がキャンセルオーダーを入れてくれました。

何故なら、この患者さんは、頭のてっぺんに(髪の毛はありません)、進行は遅いものの、ずっと薬を塗り続けている皮膚のがんがあったからです。ずっと何年も皮膚科に通っている、とのことで、入院時には、それに関しては、専門医にかかっているから、と、別枠になっていました。

Regranexの使用感とか潰瘍が良くなっていく感じをすごく見たかったのですが、やっぱり患者さんは個々違いますし、患者さんの安全第一ですので、今回は残念ながら見送りになりました。

副作用

Regranexの唯一と言ってもいい副作用は、Cancer risk、がんを誘発するかもしれない危険性です。なので、「この薬は、3か月以上使用を続けることは控えて下さい」と注意書きがされています。3か月以内の使用は安全とされています。

この薬がなぜ、がんを誘発するかもしれないのか、という理由はシンプルで、成長因子は、何もいい細胞だけを成長させるのではなく、がん細胞をも成長させてしまうからです。話がずれますが、がん細胞のすごい所は、自力でアンジオジェネシス出来ることです。がん細胞は血液がないと生きていけません。だけど、自力で、その辺に手を伸ばして、血管を造設してしまえるのです。これに成長因子が追加されたら、ただでさえどんどん成長できる細胞が、更に成長してしまうでしょう。

でも、正し書きには、「”Regranex is contraindicated in patients with known neoplasm(s) at the site(s) of application” (OPTUMRX, 2018). 」と書かれていて、例えば、がんが頭のてっぺんで、潰瘍が足裏なら問題ありませんよ、ということです。

しかし、この患者さんの場合は、誘発どころか…もう既に病気としてのがんが体のどこかに存在しているわけで、部位がいくら離れていても、やはり不安要素が大きすぎます。

というわけで、病院としては、やっぱりリスクは避けよう、ということになりました。

ちなみに、私の好きな「Podiatry Today」という刊行物があるのですが、その中に、下記のように書かれた記事がありました。

”One should not use it in patients with known malignancy, even at a site not near the wound, and should definitely not use it at the wound site” (Aung, 2016).

ブラック・ボックス・ウォーニング (Black Box Warning)

Black Box Warningというのは、FDAが薬を認可して発売する際、患者さんの安全のために、注意事項を記載している場所で、強調するために黒枠でバーン、と書かれているものです。このBlack Box Warningがついた薬は、Regranexだけでなく、その他にも数多くあります。

FDAは、このBlack Box Warningを、2008年にこのRegranexにつけていますが、この時点では、Regranexは、Johnson & Johnson社のものであり、その後、2011年にSmith & Nephew社によって、買収されています。

そして、Black Box Warningのラベルが、最近になって、外されているようです。私の目の前に商品が実際にあるわけではないので、実際に見て確認していませんが、そのようです。箱を手元にお持ちの方は、見てみて下さい。

FDAが一旦つけたBlack Box Warningを外すのは、相当珍しいことのようで、珍しいというか初ケース?ともどこかで読みました。下にリンクがある「Podiatry Today」だったかな?

記事の筆者が「box warningをよく読むと、その中に、”がん (cancer)”という言葉が使われていない」とあります。医療従事者はわかっても、一般の実際に薬を使用する患者さんには、そのリスクが直球で伝わっていない、ということです。

しかしながら、別の方面から考えてると、この薬で治療の進みが早くなって助かる人も大勢いるわけで、一概に副作用がリスクと決めつけて没にしたら、それこそ折角開発された成長因子による治療を闇に葬ることにもなってしまいます。実際に、この薬は効果としては明確なわけで、これで治癒が速まった人も数多く存在するのも事実です。

これ(Black Box Warningを外すこと)のために、Regranexについての大々的なリサーチがあって、きっとそれは社運がかかったリサーチだったのだろうと思います。でも、社運と言っても、リサーチ元は、普通企業によるものではない筈で、どうなんだろう、そこはここでは省きます。

最後に… 私のPosition statementはどこか、と聞かれたら(誰も聞いてませんけどね)、この薬に関しては、私は中立の意見で、好きなふうに治療していいよ、と言われたら、きっとwound VACで行きたいです。創傷のサイズがどんなに小さくても。ドレイネージの量に関わらず。医師に反対されるので残念ながらできませんが…。

Reference

Aung, B. (2016). A close look at the evidence for using Regranex. Podiatry Today, Oct. 27, 2016. Retrieved from: https://www.podiatrytoday.com/blogged/closer-look-evidence-using-regranex

OPTUMrxからの資料。薬を自宅に送ってくれたりする、薬局的な会社です。Retrieved from: https://professionals.optumrx.com/content/dam/optum3/professional-optumrx/news/rxnews/drug-safety/drugsafety_regranex_2018-1203.pdf (PDFファイルです)

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