薬剤耐性。抗生物質に代われる?オゾンとは

■抗生物質が効かない

■抗生物質に代わるもの オゾン・セラピーとは

■抗生物質が効かない

外来に、半年に一回位の頻度で来られる患者さんがいます。半年に一度、約一か月程通院して潰瘍が治ります。が、それから半年位経つとまた潰瘍が出来て、外来に来られます。

今回も、同じような箇所に同じような潰瘍がまた出来て、通院しています。今回は、ふくらはぎ部分に5㎝くらいのサイズの潰瘍が出来ています。この方は、いつも赤味が腫れ、痛みがひどくなってから来られるので、主治医が抗生物質を処方することになります。今回もそうでした。

今回は、Wound cultureを取ったところ、2種類の違ったバクテリアが検出されました。ラボ結果とラボから出された薬剤のリストに沿って、主治医が2種類の抗生物質を処方しました。潰瘍は抗生剤と一緒に治療すると、普通は効果的です。しかし、今回は、抗生物質を併用してもなかなか治癒に時間がかかっていて、こう何度も抗生剤を服用しては、薬剤耐性を引き起こして、抗生物質が効かなくなっている可能性もあります。

地球上の抗生物質の種類には限りがあります。私達はどんどん抗生物質を使って、どんどんバクテリアが強くなっていくように訓練しています。敵を訓練している。バクテリアの進化の方が、新しい薬を開発するスピードより速い可能性もある。最強の抗生物質もさらっと使われていたりする。もうその先が無いかもしれないのに…。

人類は、新しい抗生物質を開発しなければいけないかもしれないけど、果たしてそれが正しい方向なのだろうか。別の観点で、敵と戦うべきなのだろうか。

昨日、この患者さんの主治医が、「オゾン・セラピーっていうのを過去にやってみたらなかなか良かった」という話をしました。でも、「アメリカでじゃないんだよね。」ということで、国によって、承認があったりなかったりします。病院などでは、保険や安全性の関係により、承認されていない治療法は使われない傾向にあります。

■抗生物質に代わるもの オゾンセラピーとは

オゾンというのは、酸素分子が3つ連なったガスで、酸素が「O2」というのに対し、オゾンは「O3」です。強い酸化作用により、水や空気の殺菌に使用されています。歯医者で紫の光で殺菌してもらった経験はありませんか?あれもオゾンの作用を利用したもののようです。

オゾンを使用した創傷ケアの効果は様々な国でリサーチされて証明されています。参考文献によると、オゾンは、創傷の他、前述のように歯の治療、ヘルニアの治療、C型肝炎の治療など、実に幅広い分野で利用されているようです。

しかしながら、オゾンを使用した治療に関しては、過去に医療事故も起こっています。1990年代の初めに、血管中にオゾンガスをIV経由で注入するという治療があり、患者さんがembolism(動脈ガス塞栓症)を起こして死亡に至る事故があったようです。そのため、いくつかの国ではオゾン治療の承認が遅れています。アメリカでも、FDAはオゾンを使用した治療をまだはっきりと承認していませんが、オゾン使用の治療には賛否両論があります。患者さんの個人使用は良いとか、いろいろな説があるので、個人での使用を考えている方は、主治医に相談されることを強くお勧めします。

創傷の治療に使用する場合は、創傷部分にドレッシング材を通してオゾンガスを注入します。ガスフォーム以外では、オイルフォームがあります。オゾン化したオイルは、皮膚上 (topical)から及び経口 (oral) で取り込まれます。

オゾン・セラピーを施す際、創傷部位では次のようなことが細胞レベルで起こります。

  • 創傷部位の酸素の供給量が増える
  • 抗酸化物質の生産が高まる
  • 抗酸化作用が起こる
  • オキシトシンが産出され、それによって免疫抑制力が高まる
  • 菌の活動が抑えられる
  • 炎症物質の活動が抑えられる
  • 細胞核エフェクターが活性化される

オゾンには、バクテリアの他、ウィルス、寄生虫、真菌などを取り除く効力があります。これは例えば、HIV(ウィルス)を完治できるかもしれないという希望をもたらします。

上記の他、オゾン・セラピーは、イオン性液体の生産 (ILs)、プロスタグランジンの活性化など、他にも様々な作用があります。

状況からして、現在通院中の患者さんの潰瘍の治療には直接的には使用できなさそうなオゾンセラピーですが、更に開発がされて、抗生物質だけに頼っている現在の医療状況が少しでも変わって行ってくれたらと願います。

注:オゾンは少量だと人の健康に効果的な面が多い反面、量が多くなると健康に害をもたらします。健康上の質問は、主治医の先生にお尋ねください。

Reference

Anzolin, A. P., Silveira-Kaross, N. L., & Bertol, C. D. (2020). Ozonated oil in wound healing: what has already been proven? Medical Gas Research, 10(1), 54-59. DOI: 10.4103/2045-9912.279985.